書評

21.『ルリユールおじさん』 いせひでこ著 理論社 2007年3月第4刷発行

今まで秘密にしていましたが、実は、私は大の絵本好きです。 絵本と言えば文章と絵とが併存する書物です。作者の意図や作品そのものによって異なることですが、それは決して子どものためだけに書かれたものではないと私は思っています。何かの拍子に絵本を読...
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20.『放課後の音符(キーノート)』「Keynote」 山田詠美著 新潮社 1989年10月10日発行

先日、仕事を通じて知り合った方と三年ぶりに再会しました。まるで地球を周回する彗星のように、概ね三年を周期とした再会を繰り返すこと四回。彼女とはかれこれ十年を超えるお付き合いです。勝手ながら、もう友人と呼ばせていただいても差し支えないと思って...
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19.『ノックの音が』 星新一著 新潮文庫 平成26年6月10日30刷

同じ目的を果たすために、取ることができる方法にはいくつかあります。 例えば相手に文書を送るためには、手紙やメールという方法が考えられます。私は仕事上、毎日のように誰かとメールの遣り取りをしています。パソコンでメールを打つ際にはキーボードを使...
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18.『赤毛のアン』 モンゴメリ著 村岡花子訳 新潮文庫 平成20年6月15日3刷

数年前、私は県内の中学校を訪ねる仕事に多くの時間を割いた時期がありました。地図上でその日に訪ねた中学校の位置を線で結んでみると、大小様々な図形を描くことができます。その移動距離が最も長かった日には、車の走行距離が360キロメートルを数えまし...
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17.『新編宮沢賢治詩集』 天沢退二郎編 新潮社文庫 平成16年3月25日29刷

小説、詩、エッセイ。どの形態をとっても、文章の書き出しは難しいものです。書き出し、あるいは最初の一文で、その文章に対する読み手の態度が大方決まってしまうと言っても差し支えないでしょう。この理由から、読み手を自分の文章の中に引きずり込みたいと...
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16.『夢十夜・草枕』「夢十夜」 夏目漱石著 集英社文庫  2009年8月8日第15刷

夏目漱石の作品に関する研究成果は膨大な数にのぼります。そのため、ある作品についてどのような論考が成されているのかを調べるだけでも、相当の労力を要します。大学の文学部に属する学生が書いたものや、趣味で論考を手掛けている方々の記述まで合わせると...
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15.『おじいさんの思い出』 トルーマン・カポーティ著 村上春樹訳 文藝春秋 1988年3月15日第1刷

私が高校を卒業したころのことだったと思います。その年の春に就職したばかりの兄から、何か欲しい物はないかと問われました。突然なぜそんな嬉しいことを言ってくれるのかと思って訊ねると、初任給が入ったから、何か記念になる物を買ってやりたいとのことで...
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14.『孤独か、それに等しいもの』「孤独か、それに等しいもの」 大崎善生著 角川書店 平成16年7月3日第3版

物事が理解しにくい、あるいは不可解だという感覚は、その立場になって考えることが難しいからこそ発生します。私にはどうにも想像しにくいと思えることがいくつもありますが、そのうちの一つが双子の関係についてです。私には兄弟がいますが、双子ではありま...
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13.『夏の庭』 湯本香樹実著 新潮文庫 平成6年2月25日発行

ある年のことです。7月の終わりから8月の初旬にはとても暑い日が続きました。私が担当する部活動は屋内競技であるため、基本的には天候に左右されずに活動することができます。しかし、外の気温が上がると体育館は35度を超えることもあり、その場合には練...
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12.『帰れぬ人びと』「川べりの道」 鷺沢萠著 文春文庫 1998年6月5日第7刷

家族の中で、果たすべき役割を考えて行動している人は多いはずです。 私は特定の人に特定の役割を当てはめようとは考えていません。これを当然のようにやろうとすると、男は男らしく、女は女らしくといった場合の「らしさ」とは何かというような、途方もなく...