『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」A8

倉科は口を突いて出るままに嘘を並べた。川村椿本人は、彼女に関する退学届けを学校に郵送してきて以降、どうしているのか分からない。こちらに残されている書類には、椿さんの祖父にあたる貞一さんが保証人ということになっている。椿さんの所在が分かるかと...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」A7

公立の高等学校に比べ、私立は授業料が高い。国の現行のシステムにおいては、それを学生がいる世帯の収入に応じた補助金を支出することで支援しているが、少ないながらも途中で授業料を払うことができなくなる場合が出てくる。他の私立高校ではどのような方法...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」A6

「先生、どうしたんですか? こんなところで」 不動産会社の車の後部座席のドアが素早く開け放たれた。そこから下りてきたのは桜田だった。彼女は無駄のない動きで倉科の車の横に立った。倉科は車を降りた。「ここは、以前教え子が住んでいたアパートなんで...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」A5

翌日、四月十六日、月曜日。学校に一本の電話が入った。 椿の母親、川村真理亜まりあを名乗る女は、退学の手続きをとりたいと倉科に申し出た。確かに、それまで椿が学校を休むたびに連絡をよこしていた母親の声に似ているように思えるのだが、川村真理亜の声...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」A4

倉科は胡坐をかいた自分の太股に重さを感じた。見ると、椿の右手がそこにあった。そのことに気がついたとき、今度は首筋に温かく柔らかな感覚が走った。椿が首筋に唇を這わせていた。「先生、しょっぱい」「だめだ、川村」 倉科は体を反らせて椿の手と唇とか...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」A3

染みや破れに痛めつけられた襖に遮られ、倉科が座らせられた位置からは椿の姿が見えなかった。蛇口から流れる水を薬缶(やかん)に受け、ガスコンロに点火する。一連の音が倉科の耳に届いた。「先生、お茶がいいですか? インスタントでよければコーヒーもあ...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」A2

「何日か前に、クラスの男子が数人でアパートの前まで来ました。外で騒いでいましたが、そのほかは特に何も。毎日、何もありません」 椿は窓辺に座り、外を見ていた。上半身が夕日の橙色にぼんやりと縁取られていた。「お母さんは?」「昨日の夕方から帰って...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」A1

全く目を通すことなく『一戸ノート』を桜田に渡すほど、倉科は正直ではない。そこに、倉科という自分自身のものを含め、知っている人間の名前があることを確認していた。 川村椿。 倉科とならんで同じページに記載されたその名に触れた瞬間、心に差し込んだ...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」B12

ようやく弘前西署にたどり着いた。山脇と並んで玄関をくぐり、受付で用件を伝えてから年若い制服組の案内に従った。階段を上がり、二階にある刑事課のドアをノックした。「失礼します。警視庁特別捜査本部の桜田です。ご挨拶にあがりました」 時間が時間なだ...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」B11

平成不況と呼ばれた時代、『失われた十年』は次の十年にも影を落とし続けていた。「そういうこともあるんでしょうね。何らかの事故で在校生が死ぬこともあるでしょうし」 出張先ではレンタカーを利用することが多い。運転が比較的好きな桜田にとって、知らな...