『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」B13

あの瞬間、桜田は妹の体がすでに命をもたないものであることに気づいていた。粘土の塊のように黒く腫れ上がり、幾重にも破れた皮膚の間からは赤い肉が血をこぼしていた。 嘔吐にも似た記憶の爆発に、胸の内側が焼けただれるような痛みを覚える。桜田はまぶた...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」B12

「そう言えば、もう一つ。桜田、お前、倉科という教師を捜査に関わらせているようだな。あいつからは離れろ。一般人だ。捜査に首を突っ込ませるわけにはいかない」 桜田は答えに窮した。しかし、佐藤は桜田の答えを求めてはいなかった。これは申し渡しであり...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」B11

◆ 弘前を発って帰京した桜田と山脇が夜の捜査会議にすべり込んだ途端に、号令によって会議は閉じられた。捜査員たちが次々と本部をあとにするなか、桜田と山脇は捜査の進捗状況を知るためその場に残った。 桜田は首脳陣との短い打ち合わせを終えて席を立と...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」B10

「真理亜さんはその後どうしたんですか?」 依子は少し話が長くなりますと前置きした。 真理亜の体に自分の子どもが宿ったことを知って責任感に駆られた男は、青森でいよいよ働き始めた。一九八八年のことだ。椿が生まれて二年ほど経ったころ、三人は上京し...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」B9

「また積もりましたね」 そう言いながら依子は戸口を開け、歩いてくる桜田を迎え入れた。依子の長い睫毛が、瞬(まばた)きをするたびに大きな瞳をなお一層際立たせる。そんな彼女がふと、口元に小さな笑みをたたえた。「よく降りましたもんね」「ほんとに、...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」B8

◆ 二月二十二日、木曜日。弘前市内の中心部を離れるにしたがって、道路わきの雪の嵩(かさ)が見る間に増していくのが分かる。 H町はスキー場と温泉に関連した、主に観光業で収入を得ている。とは言え、特にスキー場に関しては町を挙げて開発に着手したも...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」B7

「長野に?」「そう。H町スキー場で働いていた貞一さんの妹が、長野から来ていたスキーヤーと親しくなってね。結婚して男の実家がある長野に嫁いだんです」 それでも貞一の心配は尽きなかった。「その心配事っていうのは?」「嫁いで何年もしないうちに旦那...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」B6

◆ 不動産屋に案内させた定食屋で夕食を済ませ、すっかり日が落ちた時間に事務所に戻った。社長の鳴海(なるみ)はソファに座って新聞を広げていた。桜田と山脇が姿を現すと、太った体を器用に操って椅子から立ち上がり、自分の前のソファに座るようにと手で...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」B5

◆ 二月二十一日、火曜日の午後。桜田と山脇は、川村真理亜と椿が住んでいたアパートを訪ねた。そこに、いるはずのない人間が現れた。 つい前日に話を聞きに行った相手だ。別れてからまだ二十四時間も経っていない。倉科がその場に足を運んでいることの違和...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第二章「粉雪」B4

桜田は先に立って玄関へと歩いた。挨拶を交わしていた山脇が桜田の後を追った。靴を履いて三和土(たたき)に降りた桜田が顔を上げると、目の前に二階へと続く暗い階段が伸びているのが見えた。おそらくカーテンが閉ざされたままなのだろう。二階のフロアが闇...