『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」B12

ようやく弘前西署にたどり着いた。山脇と並んで玄関をくぐり、受付で用件を伝えてから年若い制服組の案内に従った。階段を上がり、二階にある刑事課のドアをノックした。「失礼します。警視庁特別捜査本部の桜田です。ご挨拶にあがりました」 時間が時間なだ...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」B11

平成不況と呼ばれた時代、『失われた十年』は次の十年にも影を落とし続けていた。「そういうこともあるんでしょうね。何らかの事故で在校生が死ぬこともあるでしょうし」 出張先ではレンタカーを利用することが多い。運転が比較的好きな桜田にとって、知らな...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」B10

◆ 二月二十日、月曜日。昼前に八戸駅に着いた。岩手県を通り抜ける間に車窓から目にしてきた雪景色とは異なり、八戸駅周辺には雪が積もっていなかった。その代わりなのだろうか、風が強い。駅のホームに立つ人々がみな一様に首をすくめ、コートの裾を翻して...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」B9

◆ 二十四歳。記者としてだけでなく社会人として、あるいは大人としても駆け出しの年齢だ。 社会に与える影響が比較的軽い対象に関しては取材を任せられることもあったが、一戸達樹の大半の仕事は、先輩記者に同行するものだった。 達樹が勤務していた新聞...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」B8

八鍬は白布を勢いよく捲くり上げた。グランドピアノのカバーを外しているような手つきだ。布のたわみは柔らかく空気を孕み、被害者の上半身を露にして腰のあたりに重なり落ちた。痛みか驚きか、見開かれた目が染みだらけの天井を凝視していた。瞳はもうすでに...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」B7

事件を早期に解決するためには、初動捜査が極めて重要となる。そのエキスパートが機動捜査隊だ。目撃者への事情聴取、証拠品の収集、現場周辺の聞き込みなど、犯人逮捕に至る有益な情報や証拠がどれだけ得られるかが鍵となる。何が重要な証拠になるのかは、こ...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」B6

◆ 捜査上支障のない範囲で倉科に事件のあらましを話して聞かせる準備をしながら、桜田は自前の『捜査ノート』を広げて眺めた。そこには実に多くの人間の名前が連なっている。人間一人の存在の背後に、様々な感情が蠢(うごめ)いているものなのだとあらため...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」B5

新聞社の記者室は、二十四時間眠らない。常に誰かが仕事をしているため、不審な人物が書類やデータをゆっくりと物色することなどできるはずもない。社内の人間か、よほど肝の据わった手練(てだれ)が素早く犯行に及んだとしか思えない。 一戸が何者かに脅さ...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」B4

「一戸達樹は、殺される二日前に青森県の弘前市に行っている」「本当ですか?」「すぐに弘前に飛ぶ」 桜田は腕の時計に目をやった。午後十一時。明日の朝一番に本部に事の次第を報告し、許可を得てから出発することになる。青森で倉科に会うのは、早くても明...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」B3

◆ 二月十四日、火曜日。所轄に特別捜査本部が設置され、会議が開かれた。 会議を始めるにあたり、「気をつけ、敬礼」の号令がかかる。 特別捜査本部が立つのは、あくまでも初動捜査を終えた段階で犯人が分かっていない場合に限られる。『渋谷新聞記者刺殺...