書評

58.『村上春樹 雑文集』 村上春樹著 新潮社 2011年1月30日発行

少し古い話になりますが、2015年12月31日、大晦日のことです。何かにつけ1年を振り返る機会でもあり、次の年への展望を抱くタイミングでもあります。この年は実にさまざまな本と出会いました。ジャンルはもちろんですが、それぞれの本から受けた影響...
書評

57.『地獄変・偸盗』「地獄変」 芥川龍之介著 新潮庫 令和4年6月20日115刷

私の読書にまつわる習慣のひとつに、「繰り返し読み」があります。その名の通り気に入った作品を繰り返し読むというものです。私が勝手に命名しました。以前、同じ『地獄変・偸盗』に収められた「偸盗」について書きましたが、同じ本に収められた短編でありな...
掌編小説

朝顔

七月下旬の砂利道は白く乾いていた。 時折肌を撫でるように寄せる風は細かな砂をはらみ、わたしのむきだしの足をうすく汚した。 晴れわたる空から照りつける陽光が、じりじりと肌を灼やき続けている。 ランドセルと背中の間で汗に濡れた服が肌に貼りつく。...
書評

56.『星を継ぐもの』 ジェイムズ・P・ホーガン著 池央耿訳 創元SF文庫 新版2026年1月23日7刷

私は基本的に、SF映画がとても好きです。SFは文字通りファンタジーということになります。そのなかでも宇宙を舞台にした作品については、地球に住む人類が知る科学的な事実をはるかに飛び越えた、想像の世界に思いを馳せることに胸が躍ります。舞台が宇宙...
掌編小説

坂の街

玄関の施錠を解くために鍵が入っているはずのポケットに手を入れようとしたが、学校から鉢植えの朝顔をもって帰ってきていることに気がついた。 盛りのころを過ぎ、枯れかかった蔓の付け根に種の入った実がいくつもついている。それを玄関の脇に置き、引き戸...
書評

55.『ビューティフル・ネーム』 鷺沢萠著 新潮文庫 平成19年1月1日発行

「好きな作家は?」と問われたら、あなたは何と答えるでしょうか。常日頃から考えていないと、うまく作家の名前が出てこないかもしれません。そんなときには「急にそんなこと言われえても、(作家名が)出てこないなあ」などと煮え切らない態度をとることにな...
掌編小説

六月の風は

六月の風は緑色に薫かおる。 梅雨前線は関東南部で停滞しているものの、その日の朝の天気予報によれば翌日にでも東北南部にまで北上する見通しだ。梅雨をむかえるのは各地ともほぼ例年通りだとも伝えられている。それまでの二、三日は、初夏の乾いた風を楽し...
掌編小説

ちょっとだけ意地悪を

時世もあり、十とお以上も離れた同僚と酒を飲むことはなくなった。 かつては酒を飲んでこそ話せることもあると思っていた。しかし、日常では話せないことをアルコールの勢いを借りて話しても、ろくな結果になるはずがない。この事実に気がついてからは、酒の...
書評

54.『ウェルカム・ホーム!』 鷺沢萠著 新潮文庫 平成18年9月1日発行

規則やルールを重要視するあまり、それを運用する人間の側に互いに対する思いやりやいたわりをないがしろにしてしまう場合があります。人の心を大切にしないところには良い結果は生まれません。私たちはこの事実を社会生活を営む時間の長さに比例して経験的に...
書評

53.『職業としての小説家』 村上春樹著 スイッチ・パブリッシング 2015年9月24日第2刷

「本の紹介」としてブログにアップするための原稿を書くにあたり、自分自身で決めたルールがいくつかあります。そのうちのひとつに「フィクション」として書かれた作品だけを扱おうという考えがありました。ブログという伝達方法を用いるにあたって、自分の生...