『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第五章「終雪」B12

玄関から二つ目の部屋、蛍光灯に照らされた茶の間の光景が一変していた。硝子の破片が掃き出し窓に面した縁側にきらきらと光っている。そして山脇が、右の太腿を押さえながら部屋の中央に倒れこんでいる。そこに血が流れ、畳を黒く濡らしている。「いました、...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第五章「終雪」B11

言葉を発した瞬間から、それが嘘にまみれていることを桜田自身が知っていた。自分こそが誰かを求めている。必要とされることを望んでいる。愛されることを待っている。「思っていてもその通りに行動できないことばかり、私は求められてきた。でも、これだけは...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第五章「終雪」B10

匂いがした。 それは病院の、あるいは消毒薬の匂いであり、桜田も過去に嗅いだ記憶のある、そう、死体の匂いだった。手を尽くしているのかもしれない。しかし、明らかにその匂いが漂っていた。 その密度がこの部屋の周囲に濃いのは、決して思い過ごしなどで...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第五章「終雪」B9

「そろそろ、ですね」 押し黙っていた山脇が自分の腕の時計にライトの光を当てながらそう言った。顔を上げた山脇と、振り向いた桜田の視線がぶつかった。暗がりの中にいるためか、あるいは寒さのためか。山脇の顔が青ざめている。唇が紫色に血の気を失ってい...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第五章「終雪」B8

「やはり、量的にも多いとの印象を受けました」 間違いない。伊藤の言葉に、桜田はそう思った。 階下でかすかに音がする。部屋の入り口から桜田が顔を出すと、数人の男たちが階段を上ってくるのが見えた。「遅くなって申し訳ありません」 先頭の男がそう言...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第五章「終雪」B7

こめかみを襲う痛みが、刻一刻と深く重くなっていく。いよいよ意識が遠退きはじめたとき、懐かしい光景がよみがえった。車を運転する倉科と、助手席に座る自分。二人とも笑顔だ。「桜田さん、しっかり」 繰り返される倉科の声を聞きながら、彼に激しく体を揺...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第五章「終雪」B6

「長野県白馬村に、貞一の妹、依子からすれば叔母が住んでいます。名前は里見千代。そこで」「それが?」 その子が誰なのか。倉科はそう訊ねている。「死産でした」 倉科の顔が歪んだ。「その子の父親は?」「行方不明の堀内恵一で間違いありません」「なぜ...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第五章「終雪」B5

「今晩は」「今晩は」「顔色が悪いようです。具合は?」「大丈夫です。疲れのためでしょうか、多少、めまいがするだけです。ところで、旧国立病院、今は弘前南病院と名前を変えています」桜田は念を押すようにそう切り出した。「すでにそこを退職してはいます...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第五章「終雪」B4

◆ 玄関のドアの前に立ち、桜田は呼び鈴を押した。家の中で電子音が響いている。ドアの横にあるスピーカーに電気が走り、プッと小さな音を立てた。 白馬から帰ったならすぐにH町に戻るべきだ。それは分かっている。しかし、桜田は倉科のもとを訪ねた。「は...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第五章「終雪」B3

◆ 長野に向かう旅程は決して楽なものではない。依子の監視にすぐにでも戻らなければならないという思いは、桜田の焦燥を煽(あお)った。青森市郊外、浪岡(なみおか)の山中にある青森空港の駐車場で車を降り、空の便を利用する。一旦札幌に向かってから信...