『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第五章「終雪」A7

◆ 一階にも二階にも、窓に明かりが灯っているのが見える。誰か見知らぬ人間ではなく、自分を待っていてくれている人の光だ。そう思えるだけで、倉科の心は力を得た。 青森空港に着いた時点で環に連絡を入れている。もうすぐ帰宅することを告げると、彼女は...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第五章「終雪」A6

「無視か。相変わらず嫌な奴だな。礼儀ってもんがないのか。達樹だったか、あいつもお前にそっくりだった。可愛気がなくて」 倉科の中で、もつれた糸がふいにほどけた。 その刹那、意識を飛び越えて体が動き出していた。 左足を踏み出したときにはもう、八...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第五章「終雪」A5

◆ ジャケットの内ポケットで携帯電話がふるえた。その動きに驚いて、倉科は目を覚ました。いつの間にか眠っていた。ディスプレイを見ると、桜田の番号が表示されている。「何か?」「明日の夜、ご自宅に伺っても?」 自分はかまわない。しかし、環はどうか...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第五章「終雪」A4

あの春、倉科と八鍬は五歳、桜田と杉内環は四歳とされて(・・・)いた(・・)。 四人とも棄児。皆、正確な誕生日すら分からない。保護された月日をもって誕生日とされた。 四人の中で唯一、死を望まれた状態で発見されたのが倉科だった。生きたまま土に埋...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第五章「終雪」A3

倉科は窓に向かって歩いた。八鍬が運転する車に揺られてようやくこの部屋に着いたのは三十分ほど前だ。窓から差し込む朝日が、倉科を照らす面積をしだいに増していく。窓の桟に両手を衝(つ)くと、記憶の中に沈滞して離れていこうとしなかった景色が、目の前...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第五章「終雪」A2

見慣れた、そして触れ慣れた小さく厚い版。群青色のビニール製のカバーは、倉科がほぼ毎日目を通しているものとも、花庵の森下から椿の所持品として預かったものとも同じだ。『聖書』。まさにそれを、倉科は本の山を掻き分けた先に見い出した。「何だ?」 倉...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第五章「終雪」A1

三月十一日、日曜日。冬の朝焼けに紅(あか)く染まった街が、冷たく硬い空気の中に静かに燃えている。 懐かしい。 物心がつかない幼少のころから二十五年間、倉科が過ごした街であり家だ。そんな感情が無いと言えば嘘になる。 この部屋に住んでいたころ、...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第四章「牡丹雪」B12

◆ ハンドルを握り車を発進させると、山脇が我慢し切れなかったというように切り出した。「いやあ、話したくて話したくてしょうがないっていう感じが、溢れてましたね」「そうね。自分もこの件に貢献してるって思いたいんでしょうね」「予定通り、このまま鳴...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第四章「牡丹雪」B11

「その男はこの件に関することを忘れていました。何せ捜索願など珍しいものではありませんからね、当然のことだと思います」 初めから期待しているわけなどないが、誰かから話を聞いたと切り出されれば、収穫があったものと思う。それがないとなれば、落胆し...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第四章「牡丹雪」B10

◆「この前来た時の雪道は、さすがに怖かったですよ。ちょっと強めにブレーキを踏むと、つるつるっと車体全体がもって行かれちゃいましたからね」 車を運転することの難易度が、雪がある場合とそうでない場合とでは比べものにならない。駐車場を出て間もなく...