2024-12

小説

『明日の私』第8章「写真」(4)

『秘密クラブ』が動き出してから二週間も経つと、五人はすっかり互いの存在に慣れた。夏休み中のことだから、新学期が始まって教室で大勢のクラスメイトと一堂に会せば、また違う人間関係のなかで離れてしまうことだろうう。しかしこの場に居合わせる限りにお...
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『明日の私』第8章「写真」(3)

『秘密クラブ』のメンバーは、夏休みの二日目に集まった四人を含む総勢五人に固定されつつあった。 四人が夏休みの初日に集まったことを聞きつけ、他のクラスメイトが入れ替わり立ち替わり職員室に顔を出した。しかし部活との兼ね合いで十分な時間が取れなか...
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『明日の私』第8章「写真」(2)

弱すぎる。 夫婦の間に、私には分からない何か重大な理由があるのかもしれない。しかし、これまでの経緯を一歩退いてみると、私の思考にそれほど大きな狂いはないように思える。いずれにしてもそれまで私が抱き続けてきた両親に対する嫌悪は、何度同じ思考を...
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『明日の私』第8章「写真」(1)

私の通う高校は全国の、主に私立大学とのパイプが太い。その最大の事例として、各大学から「指定校推薦」の枠を数多く与えらえている。大学側から与えられている推薦枠に、成績優秀な生徒を推挙するという方法で進学する生徒は、例年百名を超える。 私に関し...
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『明日の私』第7章「母」(5)

相手が見えなければ、信じたくても疑念を抱いてしまうことがある。本当は美智子のために時間を費やすことに否定的な感情を抱いているもう一人の自分がいる。 いくら美智子が仕事をしているとはいえ、忙しすぎて仕事以外の労力をまったく割くことができないと...
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『明日の私』第7章「母」(4)

台所では美智子が冷蔵庫を開け、食材を確認していた。「ねえ、美夏は何食べたい?」「お母さん、本当に私がやるからいいよ。休んでて」「たまにはいいじゃない。いつも美夏が作ってくれて、助けてもらってるんだから。美夏が勉強に夢中になってるときぐらい、...
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『明日の私』第7章「母」(3)

すべてのページにびっしりとひしめき合う文字が、どこまでもよそよそしく私の網膜に映し出された。このレベルの重さの文章を、読み慣れていなかったのだと思う。文字の羅列のそこかしこに組みこまれた図や表にいたってはなおさらのことで、私には見知らぬ記号...
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『明日の私』第7章「母」(2)

夏休みだからなのだろう。書店の駐輪場にはいつもより多くの自転車とめられていた。私のものとその隣の自転車が作り出していたささやかなスペースにまで、別の自転車の前輪が楔くさびのように差し挟まれていた。 私は腕を駐輪場の奥に向けて伸ばし、自分の自...
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『明日の私』第7章「母」(1)

その日、帰路を自転車で走る道すがら、私の胸は激しく波打った。 何も知らなかった自分に気づかされた。 自分が情けなかった。 私の年代は中学の三年間をゆとり教育の名のもとに過ごしてきた。そこには毎週土曜日が休みになり、教科書の内容が薄くなってい...
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『明日の私』第6章「馬鹿」(5)

「職員室に入ってきて分かったと思うけど、こんなに涼しくて快適な環境はないだろ? 高い電気代を払って何人かの教師しかこの快適さを享受していないのは実にもったいない。クラスの全員がこの空間に集まって勉強してもいいくらいだ」 そう言うと柏木はまた...