2025-02

小説

『明日の私』第14章「それぞれの道」(1)

この年の冬は長かった。 私が勇児の告白を受けた日から雪が降り続いた。記録的と銘打たれた寒波が繰り返し上空を覆おおい、冬型の気圧配置によって生み出された分厚い雲が、東北地方からなかなか離れていってくれなかった。もう空の青など忘れてしまいそうだ...
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『明日の私』第13章「反則」(8)

身勝手な目的を果たそうとする私を寛大に受け入れてくれた葛西さんには、感謝のしようもない。一人でてきぱきとこなしてしまった方がずっと手際よく終わらせられる仕事にも、私を根気強く関わらせてくれた。 優しい人。 以前、葛西さんが渡辺さんを評するた...
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『明日の私』第13章「反則」(7)

人の体は想像していたよりもずっと重かった。おもに葛西さんが支え、私は手をそえている程度だ。しかし一見痩せて小さく見える老人であっても、力を抜いてすべての体重をあずけられればずしりと重い。机の上で文字や数字を追いかけているだけでは決して得るこ...
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『明日の私』第13章「反則」(6)

雪は相変わらず降り積もっている。私の足元にも勇児の足元にも。私の弱さを、やんわりと包んでくれるように。「ねえ、勇児君、これだけは信じて。さっきの言葉、とても嬉しかった。私の一生懸命なところが好きだって。本当はね、私、何にも自信がもてないの。...
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『明日の私』第13章「反則」(5)

「いや、そうじゃなくて。何て言ったらいいのかな」 思わず笑ってしまった自分を仕切り直すように、勇児は頭をかいた。私の鈍感さが、勇児の困惑をさらに深めた。「君の、ことが、好きなんだ。だから、俺とつきあってくれないかな」 頭頂から溶岩が噴き出し...
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『明日の私』第13章「反則」(4)

二学年も終わりに近づいた二月の末。冬の間、積雪のために自転車を利用することはできない。私はローカル線を利用して通学していた。 『津軽長寿園』にも同じ線の列車で通うことができた。ボランティアを終えた帰り道。雪の降りしきる夜の中を家の最寄り駅で...
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『明日の私』第13章「反則」(3)

『津軽長寿園』の職員で私たち高校生のボランティアを受け入れる窓口が、柏木の教え子の渡辺さんだ。彼は丸々とした童顔に、見るからに人柄のよさそうな笑みを絶やさずに私に接してくれた。さらに、その渡辺さんに紹介されたベテランの介護士が葛西さんだった...
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『明日の私』第13章「反則」(2)

「で、どうやって参加するんですか?」 私は身を乗り出した。「うちの学校のJRC部で毎月主催してるボランティア活動の、二月の回に参加すること。そしてそれを足がかりに自主的に施設に通って、やらせてもらえる範囲の仕事を可能な限り一生懸命こなすこと...
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『明日の私』第13章「反則」(1)

目標に向かう道のりは覚悟していた以上に険しかった。 部活をしていないことから、推薦書と調査書と自己PR書に記入することができるような特徴を、私は何一つもっていなかった。 例えば学級でトップの成績を維持し、評定平均値でずば抜けた結果を残してい...
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『明日の私』第12章「三者面談」(7)

「弘前城都大学を推薦で受験するって言っても、狙う学部によって話はだいぶ違ってくる。どこを受けたい?」 ようやく口を開いた柏木は、眉間に皺を寄せていた。「教育学部です。中学校教育専攻の社会専修です」 柏木の眉間の皺が一層深まったように見えたの...