『明日の私』第13章「反則」(6)

小説

 雪は相変わらず降り積もっている。私の足元にも勇児の足元にも。私の弱さを、やんわりと包んでくれるように。
「ねえ、勇児君、これだけは信じて。さっきの言葉、とても嬉しかった。私の一生懸命なところが好きだって。本当はね、私、何にも自信がもてないの。運動もできなくなったし、勉強もいまいちだし。だから、できないことでも一生懸命やるしかなくて。それが少しだけ認めてもらえたような気がして、嬉しかったの。どうもありがとう」
「じゃあ俺の失恋も、ぜんぜん役に立たなかったわけじゃないか」
 勇児の顔に、ぎこちない笑みが浮かんだ。
「どうだろう、また明日から今までみたいに接してもいいかな?」
 私は、当たり前でしょ、と答えた。
「じゃあ、今日はこれで。また明日、学校で」
 勇児はそう言うとくるりと踵を返し、駅に続く道を戻っていった。次の列車が来るまでにはまだ間があったが、呼び止めて一緒に時間を過ごすわけにもいかない。私は黙って勇児の背中を見送った。その姿が降りしきる雪の向こうに見えなくなったのを見届けて、私も家のある方向に体を向けた。カーポートの軒下に身を寄せていたとはいえ、ふわふわと舞う雪は道路に面した側の私の肩にうっすらと降り積もっていた。私はそれを振り払う気にもなれず、そのまま歩き出した。等間隔に並んだ街灯の光の輪の中を歩いた。まるでスポットライトを繰り返し浴びているような錯覚にとらわれた。こんな夜は、ほんの少しだけ自分が主役になることを許されている。ただ静かにそう思った。

 二月の半ばから、私は定期的にボランティアの経験を積む機会に恵まれた。
 学校での毎日の授業を通じて客観的な知識を得ることができた。それをさらに掘り下げて考える場として週三回、放課後の『秘密クラブ』が有効だった。『秘密クラブ』に参加する日程とは別に、週一回、水曜日の夕方四時から六時までのボランティア活動が加わった。活動を通じて、社会に関わっているという実感をもつことができた。これは私にとって初めての経験であると同時に、刺激に満ちた体験だった。
 日々の忙しさが増したものの、私という名の機関車が目的地に向かって真っすぐに走り出す勢いを得たようで、むしろ張り合いを感じた。毎日、美智子と過ごす時間が少しずつ遅くなったが、その分彼女の帰宅時間と重なることで、一緒に夕食を作ることが多くなった。その結果、二人で話をする機会が増えたことで、むしろ良好な関係を築くことができるようになった。
 水曜日の夕方四時は、葛西さんがシフトに入る時間だ。私は単独で入所者の世話をすることを認められるような立場にはなかったが、葛西さんの手伝いを前提として、入所者に直接触れることが許された。

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