この年の冬は長かった。
私が勇児の告白を受けた日から雪が降り続いた。記録的と銘打たれた寒波が繰り返し上空を覆い、冬型の気圧配置によって生み出された分厚い雲が、東北地方からなかなか離れていってくれなかった。もう空の青など忘れてしまいそうだと不安になるほど、灰色の雲は絶え間なく牡丹雪を落とし続けた。雪が見る見るうちに地表を覆ったかと思うと、二日目の朝には駐車場に並ぶ車がまるで巨大な雪だるまのように白い塊と化していた。車道には車が作った轍の上にまた雪が降り積もるものだから、あるところでは融け、あるところでは固まり、不規則な段差を生んでは人々の足を鈍らせた。
私の家の最寄り駅までの道のりは、夏場であれば歩いて十分もかからない。しかし、こうも雪が降り積もってしまうと、除雪後の雪が車道から歩道にうず高く積み上げられてしまうため、歩くことすらままならなくなる。歩道を覆う、踏み固められた雪の嵩は一メートルにもなり、歩行者はこの雪の山の上を歩くしか方法がない。その上を歩いていると視線が小型トラックの屋根よりも高くなる。この道の上では、人とすれ違うのにも苦労する。年齢や性別を問わず、普段は会釈もしない見知らぬ相手と、目礼を交わしながら道を譲りあうことになる。わずらわしくはあるのだが、他人との小さな触れ合いをもつことができる事実が、私の胸の中に何か温かなかたまりを生み出した。私は身を切るような朝の冷たい空気の中で、マフラーに埋めていた顔を上げた。
駅へと続く道を歩いていると、ブーツの中にまで冷たい水が染み込んでくる。そうでなくても手足の指先がいつも冷たい私は、感覚を失うほどの凍えに長時間さいなまれることになる。学校に着いてからでも温めることができればまだましなのだが、風呂にでも入らない限り、凍え切った足指の体温はなかなか回復するものではない。だから、雪深い冬には決まってしもやけに悩まされることになる。この冬も案の定、左右の足指の数本ずつが赤く腫れあがってしまった。体が温まると、これが我慢できないほどに痛痒くなる。血流が滞ったいるところに新たな血が供給されるからなのかどうかは分からないが、無性に痒くなる。しもやけにさいなまれた箇所を指先で掻くと、表現することができないような快感に身もだえしてしまうほどだ。だからといってむやみに掻いてしまうと、皮膚が破れて出血し、今度は痛い思いをすることになる。私と同じ体質の美智子の足指には、そうやってできたいくつもの傷があった。
しもやけの痒さは、授業や自習の際の集中力をも奪う。逆説的だが、その痒さから解放されるためには、強い集中力を発揮して学習に取り組むしか方法がなかった。
『明日の私』第14章「それぞれの道」(1)
