『明日の私』第14章「それぞれの道」(2)

小説

 しもやけによる学習への障害が多少はあったものの、入浴中の患部への入念なマッサージと、靴の中にも簡易カイロを入れることによって、問題は早期に解決した。
 冬休み中の三者面談で一般推薦による国公立大学への受験を公言した私は、『津軽長寿園』でのボランティア活動を通じた準備を着々と進めることができていた。三月末の『秘密クラブ』で、たまたま受験方法の話題になった。自分のことで精いっぱいだった私は、『秘密クラブ』の他のメンバーがどの方法を利用して進学を考えているのかを、まったく気にかけていなかった。私と誠以外のメンバー三人が、指定校推薦での進学を希望するつもりだという。
 指定校推薦の枠が誰に割り振られるかは、三年生の夏休み明け直後に開かれる、学年と進路指導部の教師が集まった会議によって決定される。その時点までに積み上げられてきた評定平均値と模擬試験の結果とが、主な判断基準となる。それまでの間に生徒たちにできることと言ったら、二学年の最後の定期試験と、三学年の最初の定期試験で、できる限り高い点数を取ることぐらいのものだ。指定校推薦枠を狙う生徒たちにとっては、この学内選抜こそが最大の山場となる。
「噂によると、六組の今井も北日本学院の法学部を希望してんだってさ」
 哲也の言葉には溜息が混じっている。
 『秘密クラブ』の小部屋は職員室の空調の恩恵を受けて冬でも暖かく、私たちに快適な空間を提供してくれていた。そんな中、パイプ椅子に座った哲也が長テーブルの上にぐったりと上半身を預け、天板に顎をのせている。
「えっ、今井って、『総合』で一番のやつだろ? それは厄介だな」
 自分の身にも同じ状況が生まれかねないとでも思ったのか、哲也の境遇に対する同情が、勇児の相づちにもにじみ出ていた。

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