31.『子うさぎましろのお話』 ぶん・ささきたづ、え・みよしせきや ポプラ社 昭和52年1月30日13版

書評

 クリスマスイブの夜、皆さんはどう過ごすでしょうか。クリスマスを祝う風習はもともと日本にはなかったものですが、今ではすっかり日本人の生活に溶けこんでいるように思えます。その在り方には様々な考え方があるようです。翌日のキリストの誕生は喜ばしいことなのだから、そのお祝いとしてイブは楽しく時間を過ごすことができればいいと考える人もいます。その反対に、キリストの誕生を待つという本来的な意味において、厳かに過ごすべき時間だとする人もいるでしょう。いずれにしてもクリスマスイブやクリスマスは、家族が集まって時間を共有する良い機会ととらえることができそうです。
 家族みんなが集まる機会に、ささやかなプレゼントを交換しあうのは楽しいものです。相手が何を欲しがっているのか、普段の生活の様子を観察しながら考えておくことが重要です。そして相手が喜ぶ顔を思い描きつつ準備します。プレゼントを相手に手渡すまでの時間が、私にとってはとても楽しいのです。一方、プレゼントされることに関してはどうでしょうか。相手が私のことを少しでも思い遣って準備してくれたものであれば、ただそれだけで嬉しいものです。しかしプレゼントする側もされる側も、相手の思い遣りをうまく汲み取ることが出来ない場合があるとしたらどうでしょうか。例えば幼い子どもにプレゼントをあげるような場合を考えてみましょう。幼い心はプレゼントをくれた相手への思い遣りにどう応えて良いか分からないため、欲しいものでなければ喜んでくれないこともあるでしょう。あるいはお菓子など、消費することができる類のものなら、もう少し、もっともっとと、要求をエスカレートさせてしまうことがあるかもしれません。物事の分別がつくような年齢になってから、過去の自分のこんな行為について大人たちから聞かされたらどうでしょう。子どもの頃のことではありながら、きっと恥ずかしく思うにちがいありません。『子うさぎましろのお話』は、プレゼントをくれた相手に対し、思い遣りに欠けた嘘をついてしまった子うさぎましろの、心の成長を美しく描き上げた物語です。
 ましろはサンタ=クロースのおじいさんから、お菓子と部屋にかけるきれいな飾りをもらいました。お菓子をぺろりと平らげてしまうと、もっとプレゼントをもらいたいと考えました。そこで囲炉裏の燃えがらから取り出した炭を自分の体にこすりつけ、白い体を黒く汚します。白うさぎから別の黒うさぎの子になりすまし、二度目のクリスマスのプレゼントを手に入れるため、サンタ=クロースのおじいさんをあざむこうと画策するのです。そして、世界中の子どもたちにひと通りプレゼントを渡し終え、ようやく帰って来たサンタ=クロースのおじいさんから、首尾よく二度目のプレゼントをもらうことができました。作戦は成功したかに見えました。しかし、ましろは取り返しのつかない事態に陥ります。この事態がどんなものであり、物語がどのように展開していくのかは、ぜひ本書を読んで確認していただきたいと思います。
 この物語を読んで私が最も感心させられたのは、サンタ=クロースのおじいさんの態度です。おじいさんは、まだプレゼントをもらっていないと主張する黒いうさぎの子がましろだと、すぐに事実を見抜きます。一度は「ましろだね」と指摘したものの、ましろが違うよと答えると、それ以上の詮索はしません。黒いうさぎの子の言葉を受け入れ、たまたま残っていた何かの種と、自分が食べるためのサンドイッチを差し出すのです。ましろのために、嘘は嘘として糾弾することもできたはずです。そしてその場で罪を認めさせ、悪いことは悪いと教えることだってできたはずです。ではなぜそうしなかったのか。サンタ=クロースのおじいさんはましろの過ちの重さを、ましろ自身に気づかせてあげたかったのではないかと思うのです。おじいさんは嘘がもたらす負の効果が、嘘をついた本人に必ず返ってくることを知っていたのです。だからこそ、その後もましろの言うことをすべて信じ、受け入れてくれたのです。案の定、ましろは自分の愚かさに自分の力で気がつくことができました。それをサンタ=クロースのおじいさんへの謝罪などで終わらせず、ましろはもっと崇高な行いによって自分を高めていくことに結びつけていくのです。『子うさぎましろのお話』はクリスマスの夜、ぜひ家族で味わっていただきたい、深い深い愛情と気づきに満ちた物語です。

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