『永遠の花嫁』第一章「早雪」B4

『永遠の花嫁』

「一戸達樹は、殺される二日前に青森県の弘前市に行っている」
「本当ですか?」
「すぐに弘前に飛ぶ」
 桜田は腕の時計に目をやった。午後十一時。明日の朝一番に本部に事の次第を報告し、許可を得てから出発することになる。青森で倉科に会うのは、早くても明日の夕方になるだろう。
「それにしても、目撃者が第一発見者の女一人しかいないってのはキツいですよね」
「平日の夜十一時頃、しかも雨が降っていたとなると、住宅街をうろついている人間なんてそうはいないだろうからね」
「そうですよね。それも突っ込んで聞いていくと、あてになりそうにないですもんね」
 事件発生当初、仕事帰りの若いOLが、走り去る人影を目撃したと申し出た。どうやらその後ろ姿が女のものだったらしいという証言は、実に曖昧なものだった。顔はもとより服装すら夜の闇に紛れて確認できなかったという。だが、その影のラインが女のもののようだったというところに、この目撃者なりの主張があった。しかし、今回の被害者である一戸には、その周辺に異様なほど女の匂いがない。新聞記者の性質上、仕事に没頭しようとすればいくら時間があっても足りるものではない。仕事が忙しすぎれば女と知り合う機会にも恵まれないのだろう。
 今のところ捜査本部は、虚ろな目撃情報よりも具体的な名前が挙がっている相手への捜査に力を入れている。つまり、新聞記者として追っていた事件に関係のある人間が、うるさい一戸を黙らせるために起こした事件なのではないかという線の洗い出しだ。
 一戸が殺害されるまでの間に、彼の周辺で殺害を準備するかのような、妙な事件が連続している。それら一連の事件の中には、記事を書かせたくない誰かが妨害していると考えるのが妥当なものもある。
 殺害のひと月前、出社した一戸は自分の机の上に雑然と積み上げられていたはずの書類の一部と、ノート型パソコンが無くなっていることに気がついた。その他の記者の物には一切触れることなく盗み出されていたものだから、本人が出社するまでは誰も気がつかなかった。

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