しかし、利き腕の右はそうはいかなかった。左腕を先に確認したのは、右腕の怪我の方が重いと知っていたからだ。
肩から指先にいたるまでがっちりとギブスでおおわれていることは知っている。だからと言ってギブスに隠された部分が動かない理由にはならない。左腕の皮膚が何かに触れている感覚がない。自分の体に左腕がついている重さが、存在の実感そのものが、ない。全身に、ぶわりと汗がにじんだ。
恐る恐る、指に力をこめてみる。動かない。
もう一度試してみる。やはり、だめだ。すかすかとして手応えがない。こめたはずの力はどこへともなく霧散してしまう。もう一度、もう一度。
あれほど力強く動いていた右腕が、今はもうただの肉塊と化していた。頭のなかがジンとしびれたように空になる。意識が薄く細くなっていく。その反対に目の前の白い天井が、ずしりと黒く重くなる。それでも、また試さずにはいられない。
動かないからといって、感覚がないからといって、すぐにあきらめられるはずがない。
しかし、やはり動かない。
そして、それは右足も同じだった。
突きつけられた現実が、今度は私の体から血の赤を奪った。私は、孤独だった。
病室の窓から差しこむ陽の光が、目覚めた時よりもずっと力強くなっている。光は不思議だ。子どものころからずっとそう思ってきた。あの青い空から降り注ぐものなのに、光そのものを青く感じたことはない。青い色はきっと弱いのだろう。そう思っていた。しかし、夕焼け空のオレンジ色は、校庭で遊ぶ友達の顔を赤く染め、リビングの白木のテーブルをあたたかに彩った。赤い色は強いに違いない。そう信じていた。だからといって青を嫌いになることはできなかったし、赤だけを愛する気にもなれなかった。ただ、ものには強弱の違いがあることを知っただけだ。今の自分は脆く壊れてしまっている。私は青い光に溶けていく自分を思った。
白く無機質な病室。窓枠に切り取られた匿名の青い空。そんな無関係なものにまで、苛立ちを覚える私がいた。いつにも増して静謐に降り注ぐ陽光が、これから私が落ちていこうとする闇にまで届かないことは分かり切っている。誰も救ってはくれない。これからの私は、弱い方へ弱い方へと落ちていくしかない。静かにそう思った。
横たわったまなじりから耳にかけて流れ落ちる、涙を拭う術さえ私には残されていなかった。