『明日の私』第11章「なりたい私」(4)

小説

「今、第何クウォーターですか?」
 私は隣で観戦している男性に訊ねた。おそらく相手チームの選手の保護者なのだろう。白いユニフォームの選手が好プレーを見せるたびに拍手を送っている。男性は第二クウォーターだと教えてくれた。私はオフィシャルテーブルとはコートをはさんで反対側にすえられたデジタルタイマーへと視線を走らせた。第二クウォーターを八分経過して、四十二対三十。
 十二点差。
 十八分間の試合でついたこの点差の意味を、皆はどのように感じているだろうか。相手チームの実力の高さを考えれば予想以上の僅差だと言っていい。私にはそう思えた。にわかに体が熱くなる自分を感じた。
 選手個々の実力では一枚も二枚も上手の相手に対し、私の学校の選手たちがよく守っている。すぐに足元のフロアで展開されている試合に引きこまれた。
 青チーム、私の学校の選手がジャンプシュートを決めた。打点の高い、綺麗なシュートフォームだ。その直後に五人の選手が全員自陣のゴールを守りにかかる。陣形はハーフコートの三-二ゾーンディフェンス。
 ゲームコントロールとボールを相手コートに運ぶことを主な役割とするガードと呼ばれるポジション以外、すべての位置で白チームが青チームの体格を上回っている。ゴール下を守るセンタープレーヤーにいたっては、おそらく十センチ以上の身長差があるだろう。ひときわ高い身長をほこる白チームのセンターは、確か百九十センチ台後半だったはずだ。そのうえ動きにも速さにも定評がある。もちろん、県の高校選抜メンバーに名を連ねている。悲しいくらいのミスマッチだ。このレベルのセンターがいるチームに、ガードやフォワードに対する守りを厚くする三-二ゾーンでどう対応するのか。私は目を凝らした。
 三ー二の陣形を作ると、青チームの誰からともなく「ハンズアップ」の声があがる。仲間を鼓舞するような、勢いのある声だ。皆両手を上げて、自分が守ることができるエリアを少しでも大きく見せようとする。
 ゴール下に近い位置、エンドラインとペイントエリアの側線の交点、ショートコーナーやローポストと呼ばれる位置に白チームのセンターが走りこんでくる。早い動きの中でのポストプレーだ。この位置は三ー二ゾーンの弱点にあたる。
 その動きに青チームのセンターが素早く反応し、ゴールリングを背中に負うようにして守りながら白チームのセンターにぴたりと体を寄せた。ガードからスリーポイントライン上の、四十五度の位置に走ったフォワードにパスが通った。その位置にもすでにディフェンスが戻っている。スリーポイントシュートを警戒して、一歩でシュートチェックに入ることができる位置に身を置いていた。
 白チームのフォワードはローポストでボールを要求する味方の動きを見逃さなかった。ディフェンスの横を鋭いバウンズパスが通った。ボールをキャッチした白チームのセンターは、自分の背中にぴたりと貼りついたディフェンスの存在を明らかに意識していた。
 次の瞬間、フロントの三人の中で右翼を守っていた選手が、ボールをもったセンターの足元に体を寄せた。もともとゴールサイドを守っていた選手と二人で、一人のボールマンを見事に挟みこんだ。これでは次のステップが踏めない。いくら身長が高い選手でも、足元をふさがれてはゴールに正対してシュートを放つことができない。

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