『明日の私』第13章「反則」(2)

小説

「で、どうやって参加するんですか?」
 私は身を乗り出した。
「うちの学校のJRC部で毎月主催してるボランティア活動の、二月の回に参加すること。そしてそれを足がかりに自主的に施設に通って、やらせてもらえる範囲の仕事を可能な限り一生懸命こなすこと。今回は特別養護老人ホームの『津軽長寿園』だ。俺の教え子が勤めてるから、JRC部のボランティアのあとにも継続して世話になれるように話は通しておく。まずは初回の活動を決しておろそかにするなよ。本来、受験のために取ってつけたようにボランティアをするなんてのは邪道もいいところだ。入所してるお年寄りと職員に失礼だ。反則以外の何物でもない。くれぐれもそのことを忘れるな。しっかりやるって約束できるか?」
 私は一も二もなく強くうなずいた。無条件に柏木の申し出を受け入れる決意をした。
 柏木と私のやりとりを一番近くで見ていた勇児が、「よかったな美夏、頑張れよ」と声をかけた。振り返ると他のメンバーが皆、握り拳を作って『がんばれよ』の顔を見せていた。

 二月に入ってすぐ、私は『津軽長寿園』でのボランティアに参加した。
 JRC部の顧問の引率下、学校所有のバスを使って施設に向かった。バスを利用したといっても、学校から施設までは自転車で十分ほどの距離だ。冬場はまた話が別だが、学校帰りに個人の力で通うのにも無理がない。このことも柏木にとっては計算ずくなのだろう。
 施設に入ってまず驚いたのは、その清潔さだった。私は消毒液やその他さまざまな薬品の臭気に満ちた場所を想像していた。しかし現実の施設は、木をふんだんに取り入れた明るく温もりに満ちた空間だった。古い病院のような無機質で冷たい環境をイメージしていた私にとって、このギャップは大きな衝撃だった。
 何も知らない高校生に任せられる仕事のレベルは当然軽度で、入所する老人たちに直接手を触れるようなものではなかった。その日JRC部員と私に与えられた仕事は、車椅子みがきだった。金属部分に浮きだした錆を研磨剤が入った液状のクリーナーでみがき落とし、車軸部分に油をさした。私はその作業に没頭しながら、施設の正職員の仕事を観察した。
 介護の対象となる老人によって世話をする内容に違いはあるものの、総じて力仕事だ。施設の方針として、可能な限り老人たちに体を動かす機会を与えようとしている。他の施設であれば寝たきりにさせがちな程度の老人の場合にも、そのまま寝かせておけばよいということは決してしない。できるだけ自分の足で歩くように促した。そのため足取りの不安定な彼らの体を、全身を使って支えながらつきそわなければならない場面も多かった。

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