『明日の私』第14章「それぞれの道」(3)

小説

「勇児は?」
 私の問いに、勇児は寂し気な笑みを浮かべた。
「何をやりたいか真剣に考えたんだけど、俺、中国史を勉強したいんだ。その先の職業に結びつけることを考えると、教師になることぐらいしか思いつかないんだけど、それは後から悩めばいいかなって。今は、学びたいと思えることを学べる道を進みたい」
「じゃあ、大学は?」
「桐邦学園大学の人文学部がベストかな。俺の実力的に。東洋史学科があるんだ。指定校推薦の枠が取れるかもしれない」
「行けそう?」
 指定校推薦の枠がもらえそうかという意味だ。
「うん。ここ五年は希望者がいなかった。進路指導部で調べたんだ。藤田先生も、進路指導部付になって十年になるけど、志望した生徒は記憶にないって言ってた」
「じゃあ、ライバルの出現はなさそうだね」
「うん。でも、そこなんだよなぁ、何だか実感がわかなくってさ」
「考える時間はまだまだあるから、だんだんその気になっていくんじゃない?」
「そうなのかなぁ。ここを離れるのは正直嫌だな」
 寂し気な笑みが深まった。そんな勇児の表情を変えたかった。
「私は、ちょっと羨ましいな。この土地を離れてみないと分かんないことっていっぱいあるだろうし」
「そう思えるようになればいいんだけどな」
 私と勇児の会話に、保奈美が口をはさんだ。
「指定校推薦の枠が取れそうなだけでいいじゃない。私なんて、ライバルがいっぱいだから」
「保奈美はどこ狙ってんの?」
「青い森県立大。三人の枠だあるんだけど、今の時点で少なくても八人希望してるんだって」
「えっ、八人? どうして分かったの?」
 指定校推薦の希望者に関する情報は、基本的にはすべて伏せられている。生徒の将来を左右する重要な事柄について、教師陣が曖昧な情報を提示することはない。
「女の子の情報網って、あっと言う間に広がるのよ。誰がどこを希望していそうだなんて、結構分かってるもんなのよ」
「女って、怖いな」
 保奈美の言葉に、誠がぼそりとつぶやいた。
「それで? どうすんの?」
 勇児がそのあとを引き受けた。

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