『明日の私』第3章「しょっぱい味噌汁」(3)

小説

 やがて秋が過ぎ冬を迎えた。
 その年の冬は例年にも増して積雪が多かった。美夏が住む北国の小都市では、除雪のための費用に充てていた予算を二月末には使い果たしてしまっていた。
 例年ならばたとえ二、三日雪が降り続いたとしても、そのあとに晴れ間がのぞいてそれなりに積もった雪のかさも減っていく。しかしその年は幾日ものあいだ深く雲がたれこめ、たまに日差しが戻ってきたと思いきや、すぐに雪雲が切れ目をふさいでしまった。一日当たりの降雪量はそれほど多くはないものの、毎日降り続けばやはり積雪は確実に増すものだ。除排雪によって積み上げられた道路わきの雪は、人の背丈を越えていつの間にか各家庭の一階の屋根にまで達する勢いを見せていた。積雪のあった夜に風が吹けば、風下に押し出された雪が軒下に垂れ下がり、マッシュルームの傘のように屋根を巻きこんだ。
 車道から歩道に積み上げられた雪の上を歩くものだから、歩行者は中空に浮いているような格好になった。歩行者の足元が乗用車のルーフよりも高くなる場合もあり、家と駅の往復時に上から車を見下ろす違和感を楽しむことができた。
 雪にまみれたそんな年の瀬、はす向かいに食卓を囲んだ夕食の場で、美智子がめずらしく学校の話題をもち出した。
「ねえ、美夏」
「うん?」
 私が沢庵を口に運んだタイミングだった。それをパリパリと噛みながら、美智子の言葉を待った。
「学校からの連絡に二年生に上がるときのコースのことが書いてあったんだけど、どうするつもり?」
「うーん、あんまり考えでないな」
 私が通う慈修学園高校は、各学年が十クラスで構成されている。全学年を合わせれば三十クラスになる、比較的規模の大きな学校だ。大都市圏とは違い、地方ではえてして公立高校に入学希望者が集中する。それは学費の違いをはじめとして、様々な事情によってもたらされる傾向だ。少子化のあおりを受けた私立高校が、軒並み経営上の息苦しさのなかであえいでいる状況下にあって、美夏の通う高校はこれまでのところきわめて安定した入学者数を維持していることになる。
 特定の種目に秀でた能力を有する体育奨学生が多数在籍しているが、私立高校ならではの大学とのパイプを利用した推薦枠に魅力を感じて入学してくる生徒も多い。そのため実に幅広い目標をもった生徒が同居することになり、三つのコースが設けられている。

タイトルとURLをコピーしました