私の通う高校は全国の、主に私立大学とのパイプが太い。その最大の事例として、各大学から「指定校推薦」の枠を数多く与えらえている。大学側から与えられている推薦枠に、成績優秀な生徒を推挙するという方法で進学する生徒は、例年百名を超える。
私に関しては、このような進学の方法をとるつもりはまったくなかった。進学コースに席を置いていながら、あくまでも地元の国公立大学に入学することを第一の希望に据えていた。
積極的な意味合いというよりは消極的な理由が根底にあった。進学の際に奨学金を受け、入学後にアルバイトをするにしても、経済的には美智子に頼らざるを得ない。この土地を離れて一人暮らしをするようなことになれば負担はさらに倍増し、たとえ寮に入ったとしてもかなりの出費を余儀なくされる。
美智子に話せばきっと何とかすると答えるだろう。お金のことは心配しないでやりたいことをやりなさいと言うであろうことは簡単に想像がつく。
しかし、現実的に家計に余裕がないことは間違いない。私が家計の一部をやりくりしているのだから、その現状は痛いほどに分かっていた。
いっそのこと父親と美智子とが正式に離婚してくれたなら、どんなにいいだろうかと思うことがある。精神的にすっきりするということもあるのだが、離婚の理由が父親にとって圧倒的に不利なものである以上、私が成長する過程で必要とされる金銭の負担を強制することができるのではないか。父親は蒸発してしまったわけではない。家を出る前に勤めていたのと同じ職場で禄を食み続けている。彼には明らかに私の養育費を払い続ける義務がある。
その当然の権利を美智子はなぜ要求しないのか。
言いがかりでも何でもかまわない。私は父親に、あらゆる口実で可能な限りの金銭を支払わせてやりたかった。家族を悲しませるだけ悲しませておいて、自分は得体の知れない若い女とのうのうと暮らしている。そんな俗物を苦しめることができる方法があるのなら、どんな手段を使ってもかまわない。何とかして罪を償わさせてやりたかった。
しかし、美智子は動かない。
美智子が父親を糾弾しないのは、揉め事のなかに身を置いて自分を擦り減らすことを恐れているからに他ならない。少なくても私はそう思っている。美智子のなかに、父親のわがままを許容する器の大きさと呼び得るものが存在しているなどということでは決してない。
父親が職業を維持したまま家族をすげかえただけで平然としていられるのは、自らの意志を貫く強さをもっているからではない。逆境に強い逞しさをもっているためなどでもない。いつでも許してもらえるだろうという甘えを元にして、ただ美智子の精神的な弱さにつけこんでいるだけだ。