弱すぎる。
夫婦の間に、私には分からない何か重大な理由があるのかもしれない。しかし、これまでの経緯を一歩退いてみると、私の思考にそれほど大きな狂いはないように思える。いずれにしてもそれまで私が抱き続けてきた両親に対する嫌悪は、何度同じ思考をたどっても尽きることはない。しかし、親の庇護の下にいつまでも甘んじている自分もまた弱い存在なのではないか。両親の血を受け継いで、巣立ちを恐れる雛鳥のように、そこから自分だけでも飛び立とうとする努力から目を逸らしているだけなのではないか。
私は美智子を守り続ける存在でありたいと願った。自分を犠牲にしてでも美智子を守ることで、自分の強さを証明しようとする意志を貫きたい。もしかしたらこの一点にのみ、私は自己実現の可能性を見い出していたのかもしれない。
事故に遭って数か月間の入院治療を余儀なくされ、考えた挙句に学習面での自己実現を目指そうと決めたものの、その方向に自分を突き動かす動機が希薄だったのだと思う。
しかし今は違う。将来にわたって自分と美智子との生活を守るためには、それ相応の学力を身につけて、望むような安定した収入を得ることができる職に就く必要があると思うようになった。そしてもうひとつ、柏木によって与えられた衝撃に対する反発が、反作用として私を学習に駆り立てた。
馬鹿か? お前は。
柏木の一言が、私の胸に突き刺さったままだ。ドンと突き飛ばされたような衝撃を覚えたまま、悔しさがいまだにくすぶり続けている。尻もちをついたまま倒れ込んでばかりはいられない。私は即座に起き上って、柏木の前に仁王立ちになってやろうと心に決めた。そのエネルギーはマイナスからのスタートではあったものの、結果的に学習に身を入れるというプラスの方向性を私に与えた。何て地味な目標なのだろう。それでも今の私には学習に身を入れることこそが自己実現につながるのだという、決心という名の諦めが芽吹いている。
柏木に出会えたこと。そして馬鹿とののしられたこと。
逆説的ではあるが、私にとってはそのことが最大の幸運だったのだと思う。憎たらしいと思う一方で、負けたくないという思いが私を駆り立てた。