どのくらいの間そうしていただろうか。実際にはそれほど長い時間ではない。しかし、呼吸すら忘れさせる時間は、私にとって永劫の長さを宿していた。
「試験はどうだった? うまくいったか?」
空気の重さに業を煮やしたのか、無理やり笑顔を作った父親がそう言った。しかし、取ってつけたような上っ面な言葉は、私の耳には届かなかった。
父親の存在など、もはやどうでもよかった。私の頭の中は、美智子に対する疑念でいっぱいだった。
どうして、どうして、どうして。
いくつもの思いが、ごちゃごちゃと渦巻いては膨らみ、私の頭を破裂させようとしていた。
突然やって来た父親を、まさかすんなりと家に入れたわけではないだろう。
いつから連絡を取り合って、こうする準備をしていたのか。
以前見つけた、ビールの空き缶の中に捨てられたたばこの吸い殻は、この男のものだったのか。
ならば長い間にわたって私を欺き、裏切ってきたことになる。その行為を恥ずかしいとは思わないのか。
あの、千切られた写真は何だったのか。妻と娘を捨ててまで女に走った裏切り者への、仄暗い復讐ではなかったのか。
どうしてこの男を家に上げるほどに赦しを与えたのか。
私が二年間の努力をそそぎこもうと準備してきたこの大事な日に限って、どうしてこんなひどい仕打ちをするのか。
これまでの母娘二人だけの生活では不十分だったというのか。
娘にこんなにも不愉快な思いをさせておいて、どうしてふにゃふにゃと笑っていられるのか。
どうして、どうして、どうして。
美智子に対する疑念に思考が乗っ取られ、眩暈に足がふらついた。
この女を信じようとしていた自分が惨めだった。自分の時間を削ってまで作ってきたはずの美智子との時間や空間が、すべて彼女の裏切りの上に築かれた砂上の楼閣だったことを思い知らされた。自分が滑稽だった。今まで私の中にぎっしりと蓄えられていたはずのものが、まるで風船が割れるようにすべて四方に弾け飛び、私の内面を空っぽにした。
張り詰めた空気を緩めたかったのだろう、あの男が言葉を続けた。
「試験、うまくいかなかったのか?」
私の耳は、あの男の言葉に鼓膜を震わせることを拒んでいた。私は静かに視線を上げ、美智子を見つめた。彼女に対する疑念は、やがて激しい怒りに転じた。そしてその怒りが、私の視線に攻撃的な強さを抱かせた。それに呼応するかのように、美智子も私の視線に自分の視線を合わせた。それは猛り立つ私の視線を受け流すような、曖昧で弱々しいものだった。
『明日の私』最終章「明日の私」(6)
