雪国の初冬。
冬の短い日の光が、明々とアスファルトを照らし出していた。私はその光に、肌が焼かれるような痛みを覚えた。心を慰めてくれていたはずのさらりと乾いた冷たい風が、頬にちくりちくりと刺さっては、私の中に苛立ちを残した。
しかし、私は知っていた。痛みは、自分の外側にだけ存在するものではない。何にも増して痛いものは、自分の胸の奥にこそある。
怒りに駆り立てられながら、瞳に涙をたたえながら、私は自分の魂の小ささに胸を締めつけられていた。
なぜこんなにも他人に心を搔き乱されなければならないのか。
他人がどうあれ、私は自らの信じた道をただひたすらに追い求める、そんな強さをこそ希求してきたはずではなかったのか。
他者に対する怒りが、いつの間にか我が身に対する苛立ちに溶け込んでいた。
怒りの根源を人の所為にしていられたときには、瞳にためた涙をこらえることもできた。しかし、殊に自分の弱さに思い至ると、流れ出す涙を止めることができない。
私は走った。
ただ目の前に続く道を走った。
一つ目の十字路を過ぎ、もう一つの十字路が見えてきた。あの日、私が車にはねられた場所だ。走りながら左右を確認し、車が来ないことを確かめて渡った。こんなときに車の往来を確認する余裕がある自分がおかしかった。ゆるく上る坂の上から、行く先を見渡した。
橋がある。
この街のシンボルとも言える岩木山から流れ落ちる川の支流、大和沢川。
そこにかかる通い慣れた橋。
いつもは自転車のサドルにまたがりながら通るこの橋の存在を、気にかけたことなどなかった。走っていることでいつもと違う目線になったからか、自転車よりも遅いスピードで差し掛かったからか、橋の存在がいつもより大きく見えた。
私は橋の上で立ち止まった。久しぶりのまともな運動に、ぜえぜえと荒い息が収まらない。汗が額を流れた。細切れに肺の中に取りこまれる空気は冷たく、胸につかえた。
橋の中ほどに立ち、欄干の上に両手を置いた。右手に握っていた小鉢が欄干にあたってかつりと鳴った。そこから身を乗り出して川面を覗きこんだ。橋の上から見る秋の大和沢川は水量が少なく、白く乾いた大小の石で、川原が埋めつくされていた。
『明日の私』最終章「明日の私」(8)
