夏空

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『明日の私』第6章「馬鹿」(5)

「職員室に入ってきて分かったと思うけど、こんなに涼しくて快適な環境はないだろ? 高い電気代を払って何人かの教師しかこの快適さを享受していないのは実にもったいない。クラスの全員がこの空間に集まって勉強してもいいくらいだ」 そう言うと柏木はまた...
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『明日の私』第6章「馬鹿」(4)

「先生は汗っかきなんですか?」 保奈美が突然口を開いた。話の流れをいきなり変えてしまう保奈美らしい一言に、皆で笑った。「どっちかって言うとそうかもしれないな。今日もしっかり汗をかいたんで、さっきそこの流し台で髪を洗ったんだ。おかげですっきり...
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『明日の私』第6章「馬鹿」(3)

夏休みだ。職員室には柏木のほかに数人の教師がいるだけだった。 四人が職員室に入ってきたことに気がついた柏木は、右手首を上下にぱたぱたと動かした。どこか人を食ったような手招きに誘われるまま、私たち四人は彼のもとに歩いた。柏木はつと立ち上がり、...
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『明日の私』第6章「馬鹿」(2)

一時ちょっと前に学校についた。自転車を降りて昇降口に向かった。下足箱の前にしゃがみこんで靴を履き替えている影が見えた。保奈美だった。「保奈美」「あっ、美夏。ちょうどよかったね」 保奈美は垂らせば肩甲骨の下までとどく長い髪を高い位置で束ねてい...
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『明日の私』第6章「馬鹿」(1)

夏休み初日は結局のところ誰も職員室、『秘密クラブ』には行かなかったようだ。あまりにも唐突で漠然としたその趣旨に、皆が一歩引いてしまったのかもしれない。 それでも夏休み二日目になって、私と保奈美を含めた四人が『秘密クラブ』に参加したのには理由...
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『明日の私』第5章「秘密クラブ」(4)

「ねえ、保奈美はどうする?」 私のすぐ前の席の律子りつこが、左隣に座る保奈美のそばに身を寄せて話かける小さな声が聞こえた。「何が? 先生が言ってた『秘密クラブ』のこと?」「うん、そう」「実はね、今、おっ、て思ってたの。これって私のための企画...
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『明日の私』第5章「秘密クラブ」(3)

そして七月。 定期試験が終わり、あとは耐久歩行と学校祭という比較的大きな二つの行事をクリアすれば、待ちに待った夏休みが訪れる。学校中の生徒を開放的な雰囲気が少しづつ包みこんでいった。その、夏休みを翌日に控えた終業式の日の教室で、担任、柏木が...
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『明日の私』第5章「秘密クラブ」(2)

しかし、対岸の集団のなかから、手を差し伸べてくれる者があった。大谷保奈美おおたにほなみだ。 私とは対照的に小柄な保奈美は、森の小動物のような身軽さで駆け寄ってくると私の手を引いた。抜け殻のように力のこもらない体に、不意に一方向からの力を受け...
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『明日の私』第5章「秘密クラブ」(1)

四月五日。 新しいクラスの生徒同士が顔を合わせ、担任の柏木の点呼を初めて受けた。 教壇に立つ柏木の姿を目の当たりにした瞬間、試合会場で男子部を率いる姿を遠目に見ていたことを思い出した。そのためか、柏木の存在自体に違和感はまったくなかった。し...
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『明日の私』第4章「最高の試合」(4)

「シュートが決まったのとほぼ同時に、試合終了のブザーが鳴った。その直後、世の中に音なんてもともとなかったかのように、ほんの一瞬だけすべての音が消えた。そして、観客席から地響きみたいなどよめきがようやく起こった。ノーシードがシード校を破ったん...