小説 『明日の私』第6章「馬鹿」(1) 夏休み初日は結局のところ誰も職員室、『秘密クラブ』には行かなかったようだ。あまりにも唐突で漠然としたその趣旨に、皆が一歩引いてしまったのかもしれない。 それでも夏休み二日目になって、私と保奈美を含めた四人が『秘密クラブ』に参加したのには理由... 2024.12.18 小説
小説 『明日の私』第5章「秘密クラブ」(4) 「ねえ、保奈美はどうする?」 私のすぐ前の席の律子りつこが、左隣に座る保奈美のそばに身を寄せて話かける小さな声が聞こえた。「何が? 先生が言ってた『秘密クラブ』のこと?」「うん、そう」「実はね、今、おっ、て思ってたの。これって私のための企画... 2024.12.17 小説
小説 『明日の私』第5章「秘密クラブ」(3) そして七月。 定期試験が終わり、あとは耐久歩行と学校祭という比較的大きな二つの行事をクリアすれば、待ちに待った夏休みが訪れる。学校中の生徒を開放的な雰囲気が少しづつ包みこんでいった。その、夏休みを翌日に控えた終業式の日の教室で、担任、柏木が... 2024.12.16 小説
小説 『明日の私』第5章「秘密クラブ」(2) しかし、対岸の集団のなかから、手を差し伸べてくれる者があった。大谷保奈美おおたにほなみだ。 私とは対照的に小柄な保奈美は、森の小動物のような身軽さで駆け寄ってくると私の手を引いた。抜け殻のように力のこもらない体に、不意に一方向からの力を受け... 2024.12.15 小説
小説 『明日の私』第5章「秘密クラブ」(1) 四月五日。 新しいクラスの生徒同士が顔を合わせ、担任の柏木の点呼を初めて受けた。 教壇に立つ柏木の姿を目の当たりにした瞬間、試合会場で男子部を率いる姿を遠目に見ていたことを思い出した。そのためか、柏木の存在自体に違和感はまったくなかった。し... 2024.12.14 小説
小説 『明日の私』第4章「最高の試合」(4) 「シュートが決まったのとほぼ同時に、試合終了のブザーが鳴った。その直後、世の中に音なんてもともとなかったかのように、ほんの一瞬だけすべての音が消えた。そして、観客席から地響きみたいなどよめきがようやく起こった。ノーシードがシード校を破ったん... 2024.12.13 小説
小説 『明日の私』第4章「最高の試合」(3) パスン、という乾いた音とともに、ボールがリングネットをすり抜けていた。その直後、ホイッスルの叫びが体育館にこだました。 ファウルを宣告する審判のホイッスルを待っていたかのように、会場全体からわっと歓声と悲鳴が上がった。 通常のシュートによる... 2024.12.12 小説
小説 『明日の私』第4章「最高の試合」(2) 「ゾーンディフェンスに入る前のマンツーマンが時間的に長すぎたのがネックだった。マンツーマンを一生懸命やって相手を止めようとすれば、当然ファウルが嵩かさんでくるよな。その試合では、エースが第三クウォーターの序盤で四つ目のファウルをもらってしま... 2024.12.11 小説
小説 『明日の私』第4章「最高の試合」(1) 「柏木先生はすごい」 私が高校に入学して間もないころのことだ。その日の練習が終わり、いつも通り短いミーティングをするために佐藤のもとに集合した際、彼の口からその名が出された。「とにかく熱いんだ。僕の方が教師としてもバスケの監督としても職歴は... 2024.12.10 小説
小説 『明日の私』第3章「しょっぱい味噌汁」(5) 進級に際し、私は進学コースの文系を希望した。 総合コースからの希望者には数人分の枠しか与えられていない。 私は冬の初めから学習に力を入れ、ぎりぎりではあるが冬休み明けの定期試験で進学コースに入るために設けられた基準を一応は満たしていた。しか... 2024.12.09 小説