夏空

書評

5.『李陵・山月記』「山月記」 中島敦著 新潮文庫 平成12年2月15日58刷

小学校・中学校・高等学校を通じ、国語の教科書で接した物語で思い出深い作品は何ですか? こう問われたら、皆さんは何と答えるでしょうか。自分が幼い頃に読んだ作品を今の子どもたちも読んでいることを知ると、何か特別な秘密を共有しているような親近感さ...
書評

4.『智恵子抄』 高村光太郎著 新潮文庫 平成17年6月10日120刷

数年前、カナダに出張しました。 英語が得意かそうでないかは個人によって大きな差がありますが、私は英語が苦手です。いわゆる受験英語ならばまあ何とかなるのかもしれませんが、会話となるとまるで駄目です。ネイティブスピーカーを目の前にすると、英語が...
書評

3.『放課後の音符(キーノート)』「Brush Up」 山田詠美著 新潮社 1989年10月10日発行

主人公の「私」と、その友人である雅美の物語です。 二人は同じ中学校で仲が良かったものの、普通高校に進学することになった「私」に対し、帰国子女でバイリンガルの雅美はアメリカンスクールに進学することを決め、別々の進路を取ります。しかし二人の友情...
書評

2.『放課後の音符(キーノート)』「Sweet Basil」 山田詠美著 新潮社 1989年10月10日発行

男女の間に友情は存在し得るのでしょうか? 私自身のごく浅薄な経験から言って、この問いを投げかけると二つに分かれた意見が真っ向から対立することになります。数人の男女が集まるような場面でこの話題を持ち出すと、それぞれが自身の経験を語ってくれるこ...
書評

1.『放課後の音符(キーノート)』「Body Cocktail」 山田詠美著 新潮社 1989年10月10日発行

本との出会いは人とのめぐり会いに似ていると思うことがあります。初めは偶然でも、どちらか一方、あるいは両者の意思が働いて、うまくいけば次に会う約束が結ばれます。会いたいという思いが一方を、あるいは両者を走らせます。本についても同じことが言えま...
小説

蓮花24(最終回)

恵三はごつごつと太い指にぐい呑をのせ、ゆっくりと回している。なかの液体がとろとろとたゆたう。その透明な静謐を二人で見つめた。佳佑は恵三の言葉を待った。「君がここに清美を訪ねて来るときのことを二人で何度も考えてきたし、話し合ってもきた。苦しみ...
小説

蓮花23

「清美きよみが受け取った絵手紙にあったんだ。もしも佳佑君が訪ねてくることがあったら、俺が作ったものを出してやって欲しい。ただ、それだけだ」 そう言って恵三は厨房の中に消えた。再び戻って来たとき、彼は二枚の皿をのせた盆を手にしていた。一方には...
小説

蓮花22

あの人は、母に何を書き送ったのだろうか。母の絵手紙に対して、あの人が送ったのはやはり絵手紙だったのだろうか。それとも文字だけの手紙、あるいは絵葉書。返信はしていなかったのかもしれない。聞きたいことは山ほどもあるのに、うまく口にすることができ...
小説

蓮花21

「あなたのお母様からは年始と暑中と春と秋、年に四度絵手紙をいただいてきました。一度も欠かさずにです。お手紙には、最初のころこそ事件に関する慰めの言葉がありました。それは私にとって辛い記憶を呼び起こさせるものでしかありませんでした」 すべてを...
小説

蓮花20

「他にお客さんがいないことは気にしないでください」 あの人の声に、ふと我に返った。瞬間的に隣の席の背に掛けていた上着に手を伸ばした。「それでは?」 そう言いかけると、あの人が手で佳佑の動きを制した。「もう、お店は閉めましたから」 動き出そう...