書評 12.『帰れぬ人びと』「川べりの道」 鷺沢萠著 文春文庫 1998年6月5日第7刷 家族の中で、果たすべき役割を考えて行動している人は多いはずです。 私は特定の人に特定の役割を当てはめようとは考えていません。これを当然のようにやろうとすると、男は男らしく、女は女らしくといった場合の「らしさ」とは何かというような、途方もなく... 2025.03.16 書評
書評 11.『校本宮澤賢治全集』「第二巻」 宮澤賢治著 筑摩書房 昭和48年7月15日初版発行 小学校6年生のときの担任の先生には、実にたくさんのことを教わったという実感があります。先生はすべての教科において、授業の内容を私たちに印象深く伝えるために、様々な工夫をしてくれました。当時のことを思い返してみると、準備に相当の時間を割いたも... 2025.03.14 書評
小説 『明日の私』最終章「明日の私」(最終回) いや、違うな。もう一つの想像が、柏木の姿に覆いかぶさった。 もしも柏木が私と同じ立場に置かれたら、もっと野蛮に、何のためらいもなく、美智子をなじり、父親に嚙みついたかもしれない。そんな自分の姿を恥ずかしいなどとは思わず、めちゃくちゃに暴れま... 2025.03.05 小説
小説 『明日の私』最終章「明日の私」(9) 私は橋を渡った。 川に沿ってのびる土手の上には、乾いた土がむきだしになった白い道がどこまでも続いている。私は土手の稜線にのびるこの一本道を、当あて所どなく歩いた。 川原と反対側の斜面には、幹回りのたくましい桜の木々が連なっている。立派な枝ぶ... 2025.03.04 小説
小説 『明日の私』最終章「明日の私」(8) 雪国の初冬。 冬の短い日の光が、明々とアスファルトを照らし出していた。私はその光に、肌が焼かれるような痛みを覚えた。心を慰めてくれていたはずのさらりと乾いた冷たい風が、頬にちくりちくりと刺さっては、私の中に苛立ちを残した。 しかし、私は知っ... 2025.03.03 小説
小説 『明日の私』最終章「明日の私」(7) 私の視線に射すくめられた、美智子の目が物語っていた。仕方がなかった、と。 私は、胸の中を黒く塗りつぶす疑念が少しでも晴れるように、美智子にいくつもの問いをぶつけてやりたかった。どうして性懲りもなくまたこの男を受け入れようとしているのか、納得... 2025.03.02 小説
小説 『明日の私』最終章「明日の私」(6) どのくらいの間そうしていただろうか。実際にはそれほど長い時間ではない。しかし、呼吸すら忘れさせる時間は、私にとって永劫の長さを宿していた。「試験はどうだった? うまくいったか?」 空気の重さに業を煮やしたのか、無理やり笑顔を作った父親がそう... 2025.03.01 小説
小説 『明日の私』最終章「明日の私」(5) 「おかえり」 美智子の声もいつも通りだったように思う。玄関からドア一枚を隔てたリビングにいるであろう、彼女の様子をうかがい知ることはできなかった。しかし、何もかも日常との違いはないはずだった。 だが、私の目は異質なものをとらえていた。 黒革... 2025.02.28 小説
小説 『明日の私』最終章「明日の私」(4) 推薦入試に関するすべての行程を終え、私がコンクリートの牢獄から解放されたのは、昼を少し回ったころだった。 晩秋の空はどこまでも高く、そして澄んでいた。 朝よりも一段と輝きを増した陽の光があふれる中を、私は学舎の出口から正門に向かって駆け出し... 2025.02.27 小説
小説 『明日の私』最終章「明日の私」(3) 「それじゃ、行ってきます。先生はこれからどうするんですか?」 そんなはずなどあるわけがなかったが、妙な期待をしてしまう。こうして待ってくれていたのだから、試験がすべて終わるまで会場の敷地内にいてくれるのかと。「これからすぐに学校だ。部活の連... 2025.02.26 小説