夏空

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『明日の私』第12章「三者面談」(7)

「弘前城都大学を推薦で受験するって言っても、狙う学部によって話はだいぶ違ってくる。どこを受けたい?」 ようやく口を開いた柏木は、眉間に皺を寄せていた。「教育学部です。中学校教育専攻の社会専修です」 柏木の眉間の皺が一層深まったように見えたの...
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『明日の私』第12章「三者面談」(6)

「弘前城都大学を受験したいって、三者面談のときには柏木先生にも話さなくちゃならないんだけど、お母さんが了解してるかどうか確認されると思う。そのときに、先生の前ではっきり認めてもらいたいの」 美智子には、柏木の前で消極的であいまいな態度をとっ...
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『明日の私』第12章「三者面談」(5)

秋には高校生活最大のイベントとも言うべき修学旅行があり、さすがにその期間は学習から離れてしまった。しかし地元に帰ってきてすぐに、柏木と相談したうえで自分なりの学習プランを立てた。私は弘前城都大学を目指す決意をもう一度新たにすると同時に、その...
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『明日の私』第12章「三者面談」(4)

「さっきはどうやって公社の預金を増やすかってことについて話したけど、増えた分の金は社会基盤の整備に使うべきものだ。一般企業は利潤の追求が最優先だから、当然のことだけど金にならない仕事はしたがらない。だからこそ国は、少子高齢社会の問題や低成長...
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『明日の私』第12章「三者面談」(3)

「公社の民営化が実現したあとの問題点って、どんなところにあるんですか?」「三百四十兆円にのぼると言われている公社の貯金をいかに利用するかってことに尽きる。今回の選挙戦では、この点に関する首相の考えを聞くことができなかった。初めに民営化ありき...
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『明日の私』第12章「三者面談」(2)

私は素直に、やっぱり柏木はすごいなと思わされた。 本人が意識しているかいないのかは分からない。しかし現実的に、注意散漫でよそ見しがちな私たちを政治や経済という堅苦しい話題に対して夢中にさせる力を発揮することができている。この力はそうやすやす...
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『明日の私』第12章「三者面談」(1)

『秘密クラブ』に参加した効果があってか、日常生活の中に学習の時間を確保することが私にとって当たり前になっていた。夏休み中は各教科の学習内容についてこれまでの歩みを復習し直すことに力を入れた。その甲斐あって、夏休みが明けた直後の授業の内容から...
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『明日の私』第11章「なりたい私」(7)

「イチ、ニ、サン」「オシ!」いざ後半戦に臨もうとする背中の一つひとつに、目には見えない力があふれていた。そのことに気がついた瞬間、私の身体のなかを風が吹き抜けた。 こんなふうに、他人ひとに力を与えることができる人間になりたい。 風が私のなか...
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『明日の私』第11章「なりたい私」(6)

最後に、柏木はベンチに座る選手全員の顔を見回した。選手たちは暗い表情をしていたのかもしれない。私の位置からは柏木の顔しか見えないが、次の言葉がそのことを想像させた。「何をそんなに深刻な顔してんだ。そんなに固くなってたら入るシュートも入らなく...
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『明日の私』第11章「なりたい私」(5)

「あの六番、齋藤だよな? 普段と全然違わねえ?」 勇児が、クラスメイトの齋藤の動きに目を見張っている。「そうだね」 私はフロア全体の動きを早くつかみたくて、意識を集中していた。コートから目を離さないまま、勇児の言葉に曖昧に応じた。 そのまま...