夏空

『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」A1

「夕方、本庁から電話があったの。またかけ直すって言ってたけど、心当たりはある?」 帰宅の挨拶を交すなり、妻の環たまきの報告を聞く。 本庁。ついそんな言い方をしてしまう環を、倉科は笑った。環もつられたように笑った。「本庁はないだろ。警察って言...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』「序章」

凡例:本ブログに掲載するにあたり、以下のように設定した。・この物語は「倉科」の視点から語られるsideAと、「桜田」の視点から語られるsideBに分かれ、交互に編まれている。同じ章内のsideAとsideBは、対を成す構造になっている。・A...
書評

47.『蜘蛛の糸・杜子春』「トロッコ」 芥川龍之介著 新潮社 平成5年5月15日51刷

皆さんは年若いころに読んだ物語が、年を経た後の再読によってまったく別の物語のように感じたことがあるでしょうか。その物語に初めて接したときの年齢はもちろんのこと、再読までに空いた期間もまた、感じ方を変える要素になります。それは読者が積み重ねて...
書評

46.『その女アレックス』 ピエール・ルメートル著 橘明美訳 文春文庫 2015年4月10日第14刷

久しぶりに犯罪小説、あるいは推理小説を読みました。ひところはこの種の小説を続けざまに読んでいましたが、ここしばらくは手に取ることがありませんでした。その理由を今回の読書経験を踏まえて自分なりに考えてみました。その結果、作品の中に頻繁に登場す...
書評

45.『最後の喫煙者 自薦ドタバタ傑作集1』「最後の喫煙者」 筒井康隆著 新潮社 平成27年5月25日19刷

2026年が始まりました。今年は時々立ち止まって周囲を見渡す余裕を持ちつつ、新い道を切り拓くことを厭わない1年にしたいと思っています。歩みを進める際、どのようなテンポやリズム、速度を取るかという点はとても重要です。時には物事の成否を分けるほ...
書評

44.『恋愛会話』 鎌田敏夫著 新潮社 平成8年11月1日

個々人の性格にもよることですが、口にするのがとても気恥ずかしい言葉があります。それゆえに滅多に話すことはなく、必要に迫られた場合にはよほどの覚悟が必要とされます。このような種類の言葉は、恋愛に関するものに多く含まれているように思います。「胸...
書評

43.『砂の女』 安部公房著 新潮社 平成20年6月5日64刷

昆虫採集のために砂丘へと出掛けた男が、砂に埋もれた海辺の集落に迷い込みます。そして砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められ、その家に住む女との奇妙な共同生活を強いられることになります。砂穴の一軒家に閉じ込められた男の生活は、常識とはかけ離...
書評

42.『雪のひとひら』 ポール・ギャリコ著 矢川澄子訳 新潮文庫 平成20年12月1日

2015年3月14日、身近な人から贈り物をいただきました。「読書ノート」です。このブログを開設したのは一昨年の初夏ですが、それよりもずった前にいただいていた「読書ノート」を発見し利用するようになったことで、本の紹介の原稿を整理するのに大変重...
書評

41.『共喰い』 田中慎弥著 集英社 2012年2月12日4刷

第146回芥川賞(平成23年度上半期)受賞作です。 数年前にある文章を書いたところ、それを読んで下さった女性から「いかにも男性が書いたものだ」との指摘を受けたことがあります。私は本を選ぶ際、特に作者の性別を考慮に入れることはありませんでした...
書評

40.『ほかならぬ人へ』 白石一文著 祥伝社 平成22年2月1日4刷

「何気ない日常を淡々と描いている」と評される作品はたくさんあります。ある人物の何気ない日常が作品として成り立つのなら、人の数だけ物語が存在することになり、それこそ数え切れないほどの物語が世にあふれることになります。もちろん、すべての人々の日...