書評

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18.『赤毛のアン』 モンゴメリ著 村岡花子訳 新潮文庫 平成20年6月15日3刷

数年前、私は県内の中学校を訪ねる仕事に多くの時間を割いた時期がありました。地図上でその日に訪ねた中学校の位置を線で結んでみると、大小様々な図形を描くことができます。その移動距離が最も長かった日には、車の走行距離が360キロメートルを数えまし...
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17.『新編宮沢賢治詩集』 天沢退二郎編 新潮社文庫 平成16年3月25日29刷

小説、詩、エッセイ。どの形態をとっても、文章の書き出しは難しいものです。書き出し、あるいは最初の一文で、その文章に対する読み手の態度が大方決まってしまうと言っても差し支えないでしょう。この理由から、読み手を自分の文章の中に引きずり込みたいと...
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16.『夢十夜・草枕』「夢十夜」 夏目漱石著 集英社文庫  2009年8月8日第15刷

夏目漱石の作品に関する研究成果は膨大な数にのぼります。そのため、ある作品についてどのような論考が成されているのかを調べるだけでも、相当の労力を要します。大学の文学部に属する学生が書いたものや、趣味で論考を手掛けている方々の記述まで合わせると...
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15.『おじいさんの思い出』 トルーマン・カポーティ著 村上春樹訳 文藝春秋 1988年3月15日第1刷

私が高校を卒業したころのことだったと思います。その年の春に就職したばかりの兄から、何か欲しい物はないかと問われました。突然なぜそんな嬉しいことを言ってくれるのかと思って訊ねると、初任給が入ったから、何か記念になる物を買ってやりたいとのことで...
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14.『孤独か、それに等しいもの』「孤独か、それに等しいもの」 大崎善生著 角川書店 平成16年7月3日第3版

物事が理解しにくい、あるいは不可解だという感覚は、その立場になって考えることが難しいからこそ発生します。私にはどうにも想像しにくいと思えることがいくつもありますが、そのうちの一つが双子の関係についてです。私には兄弟がいますが、双子ではありま...
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13.『夏の庭』 湯本香樹実著 新潮文庫 平成6年2月25日発行

ある年のことです。7月の終わりから8月の初旬にはとても暑い日が続きました。私が担当する部活動は屋内競技であるため、基本的には天候に左右されずに活動することができます。しかし、外の気温が上がると体育館は35度を超えることもあり、その場合には練...
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12.『帰れぬ人びと』「川べりの道」 鷺沢萠著 文春文庫 1998年6月5日第7刷

家族の中で、果たすべき役割を考えて行動している人は多いはずです。 私は特定の人に特定の役割を当てはめようとは考えていません。これを当然のようにやろうとすると、男は男らしく、女は女らしくといった場合の「らしさ」とは何かというような、途方もなく...
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11.『校本宮澤賢治全集』「第二巻」 宮澤賢治著 筑摩書房 昭和48年7月15日初版発行

小学校6年生のときの担任の先生には、実にたくさんのことを教わったという実感があります。先生はすべての教科において、授業の内容を私たちに印象深く伝えるために、様々な工夫をしてくれました。当時のことを思い返してみると、準備に相当の時間を割いたも...
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10.『停電の夜に』 ジュンパ・ラヒリ著 小川高義訳 新潮文庫 平成19年6月10日第11刷

まったく異なる人格や経験をもつ登場人物たちが互いの内面を認め合い、補い合おうとするところに物語の面白さが生まれます。やがて物語の進展とともに、特定の登場人物の関係が度合いを深めていきます。特に男女の間にあっては、相手が自分にとってなくてはな...
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9.『江戸川乱歩傑作選』「二銭銅貨」 江戸川乱歩著 新潮文庫 平成19年6月10日第90刷

夏は読書の季節です。そう感じるのは私だけかもしれませんが、小学校から中学校、高校、大学と、学校と名のつく各種教育機関が夏季休業に入ると、本を読む機会も読ませようとする動きも活発になるように思います。最近では読書感想文を、希望する児童や生徒に...