『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」B2

牛乳を注いだグラスを二つ、テーブルの上に置いた。「ありがとう。いただきます」「こちらこそ。ささやかな一宿一飯の恩義でごめんなさい。いつもながら」 こんな一日の始まりを人は何と呼ぶのだろうか。平凡な、平凡な、あまりにも平凡な。「たまにはゆっく...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」B1

ベッドの中は温かく湿っていた。 目覚めて隣を見ると、男の無防備な横顔があった。 人肌のぬくもりの中でしばらくまどろんだ後、高田(たかだ)を起こさぬよう、音を立てずにベッドを出た。床の冷たさに、衝いた爪先が驚いた。 冬の東京。 部屋の寒さは凍...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」A4

「一戸達樹は、入学前から素行の面で問題視されていました」 この学校に赴任した直後に当時の校長から聞かされたことを二人の刑事に話した。「電話でお話したノートはこれです」 あの雪の降りしきる夜、一戸達樹から預かったノートだ。べたべたと無造作に触...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」A3

◆ 二月二十日、月曜日。倉科は職員室の書棚から、六年前、二〇〇六年のファイルを取り出した。 担任教師として仕事を始めた当初から、年度ごとに自分が関わったすべての生徒たちの情報を紙に落としてファイリングしていた。世の中、何が起こるか分からない...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」A2

倉科は息を呑んだ。 記憶の中の、達樹の虚ろな目がこちらを見ていた。体に突き刺さったナイフによる痛みで、その顔が歪む光景が脳裡に浮かんだ。 言葉を発しない倉科に業を煮やしたのか、桜田がさらに言葉を重ねた。「どんな生徒でしたか?」「簡単には話せ...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』第一章「早雪」A1

「夕方、本庁から電話があったの。またかけ直すって言ってたけど、心当たりはある?」 帰宅の挨拶を交すなり、妻の環たまきの報告を聞く。 本庁。ついそんな言い方をしてしまう環を、倉科は笑った。環もつられたように笑った。「本庁はないだろ。警察って言...
『永遠の花嫁』

『永遠の花嫁』「序章」

凡例:本ブログに掲載するにあたり、以下のように設定した。・この物語は「倉科」の視点から語られるsideAと、「桜田」の視点から語られるsideBに分かれ、交互に編まれている。同じ章内のsideAとsideBは、対を成す構造になっている。・A...