小説 『明日の私』最終章「明日の私」(1) 夏休み明け、九月、十月、十一月は、爽秋と秋麗と菊花に心を和ませることすら忘れ、駆け込むように十一月の半ばを迎えた。 一般推薦の試験日、私は自分で定めた時間通りに家を出た。すっきりと晴れわたった霜枯れの空の下を歩きだした。 間もなくまた冬を迎... 2025.02.22 小説
小説 『明日の私』第14章「それぞれの道」(6) 四月に三年生になったかと思うと、瞬く間に夏休みがやってきた。初めて『秘密クラブ』のメンバーが顔を合わせてから丸一年。私は推薦入試までの約三か月間を、これまで通り『秘密クラブ』と『津軽長寿園』で過ごす時間を有効に使いながら走り切るつもりでいた... 2025.02.21 小説
小説 『明日の私』第14章「それぞれの道」(5) 「誠には悪いけどさ、先生とやってる小論文、何だか楽しそうだよね」 保奈美がそう言うと、誠は顔をしかめた。「それ、ほんとにひどいよ。実際にやってる方はたいへんなんだぜ」「私も楽しそうだなって思ってた。いろんなテーマについて考えるきっかけになっ... 2025.02.20 小説
小説 『明日の私』第14章「それぞれの道」(4) 「先生に相談したんだ」「それで?」 私は柏木の対応が気になった。「志望校を替えた方がいいんじゃないかって。例年通りであれば八人の中に特別進学コースの生徒もいるだろうし、進学コースの上位者もいる。まだ定期試験と模試で挽回するチャンスはあるけど... 2025.02.19 小説
小説 『明日の私』第14章「それぞれの道」(3) 「勇児は?」 私の問いに、勇児は寂し気な笑みを浮かべた。「何をやりたいか真剣に考えたんだけど、俺、中国史を勉強したいんだ。その先の職業に結びつけることを考えると、教師になることぐらいしか思いつかないんだけど、それは後から悩めばいいかなって。... 2025.02.18 小説
小説 『明日の私』第14章「それぞれの道」(2) しもやけによる学習への障害が多少はあったものの、入浴中の患部への入念なマッサージと、靴の中にも簡易カイロを入れることによって、問題は早期に解決した。 冬休み中の三者面談で一般推薦による国公立大学への受験を公言した私は、『津軽長寿園』でのボラ... 2025.02.17 小説
小説 『明日の私』第14章「それぞれの道」(1) この年の冬は長かった。 私が勇児の告白を受けた日から雪が降り続いた。記録的と銘打たれた寒波が繰り返し上空を覆おおい、冬型の気圧配置によって生み出された分厚い雲が、東北地方からなかなか離れていってくれなかった。もう空の青など忘れてしまいそうだ... 2025.02.16 小説
小説 『明日の私』第13章「反則」(8) 身勝手な目的を果たそうとする私を寛大に受け入れてくれた葛西さんには、感謝のしようもない。一人でてきぱきとこなしてしまった方がずっと手際よく終わらせられる仕事にも、私を根気強く関わらせてくれた。 優しい人。 以前、葛西さんが渡辺さんを評するた... 2025.02.15 小説
小説 『明日の私』第13章「反則」(7) 人の体は想像していたよりもずっと重かった。おもに葛西さんが支え、私は手をそえている程度だ。しかし一見痩せて小さく見える老人であっても、力を抜いてすべての体重をあずけられればずしりと重い。机の上で文字や数字を追いかけているだけでは決して得るこ... 2025.02.14 小説
小説 『明日の私』第13章「反則」(6) 雪は相変わらず降り積もっている。私の足元にも勇児の足元にも。私の弱さを、やんわりと包んでくれるように。「ねえ、勇児君、これだけは信じて。さっきの言葉、とても嬉しかった。私の一生懸命なところが好きだって。本当はね、私、何にも自信がもてないの。... 2025.02.13 小説