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『明日の私』第13章「反則」(5)

「いや、そうじゃなくて。何て言ったらいいのかな」 思わず笑ってしまった自分を仕切り直すように、勇児は頭をかいた。私の鈍感さが、勇児の困惑をさらに深めた。「君の、ことが、好きなんだ。だから、俺とつきあってくれないかな」 頭頂から溶岩が噴き出し...
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『明日の私』第13章「反則」(4)

二学年も終わりに近づいた二月の末。冬の間、積雪のために自転車を利用することはできない。私はローカル線を利用して通学していた。 『津軽長寿園』にも同じ線の列車で通うことができた。ボランティアを終えた帰り道。雪の降りしきる夜の中を家の最寄り駅で...
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『明日の私』第13章「反則」(3)

『津軽長寿園』の職員で私たち高校生のボランティアを受け入れる窓口が、柏木の教え子の渡辺さんだ。彼は丸々とした童顔に、見るからに人柄のよさそうな笑みを絶やさずに私に接してくれた。さらに、その渡辺さんに紹介されたベテランの介護士が葛西さんだった...
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『明日の私』第13章「反則」(2)

「で、どうやって参加するんですか?」 私は身を乗り出した。「うちの学校のJRC部で毎月主催してるボランティア活動の、二月の回に参加すること。そしてそれを足がかりに自主的に施設に通って、やらせてもらえる範囲の仕事を可能な限り一生懸命こなすこと...
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『明日の私』第13章「反則」(1)

目標に向かう道のりは覚悟していた以上に険しかった。 部活をしていないことから、推薦書と調査書と自己PR書に記入することができるような特徴を、私は何一つもっていなかった。 例えば学級でトップの成績を維持し、評定平均値でずば抜けた結果を残してい...
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『明日の私』第12章「三者面談」(7)

「弘前城都大学を推薦で受験するって言っても、狙う学部によって話はだいぶ違ってくる。どこを受けたい?」 ようやく口を開いた柏木は、眉間に皺を寄せていた。「教育学部です。中学校教育専攻の社会専修です」 柏木の眉間の皺が一層深まったように見えたの...
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『明日の私』第12章「三者面談」(6)

「弘前城都大学を受験したいって、三者面談のときには柏木先生にも話さなくちゃならないんだけど、お母さんが了解してるかどうか確認されると思う。そのときに、先生の前ではっきり認めてもらいたいの」 美智子には、柏木の前で消極的であいまいな態度をとっ...
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『明日の私』第12章「三者面談」(5)

秋には高校生活最大のイベントとも言うべき修学旅行があり、さすがにその期間は学習から離れてしまった。しかし地元に帰ってきてすぐに、柏木と相談したうえで自分なりの学習プランを立てた。私は弘前城都大学を目指す決意をもう一度新たにすると同時に、その...
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『明日の私』第12章「三者面談」(4)

「さっきはどうやって公社の預金を増やすかってことについて話したけど、増えた分の金は社会基盤の整備に使うべきものだ。一般企業は利潤の追求が最優先だから、当然のことだけど金にならない仕事はしたがらない。だからこそ国は、少子高齢社会の問題や低成長...
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『明日の私』第12章「三者面談」(3)

「公社の民営化が実現したあとの問題点って、どんなところにあるんですか?」「三百四十兆円にのぼると言われている公社の貯金をいかに利用するかってことに尽きる。今回の選挙戦では、この点に関する首相の考えを聞くことができなかった。初めに民営化ありき...