小説

『明日の私』

『明日の私』第13章「反則」(7)

人の体は想像していたよりもずっと重かった。おもに葛西さんが支え、私は手をそえている程度だ。しかし一見痩せて小さく見える老人であっても、力を抜いてすべての体重をあずけられればずしりと重い。机の上で文字や数字を追いかけているだけでは決して得るこ...
『明日の私』

『明日の私』第13章「反則」(6)

雪は相変わらず降り積もっている。私の足元にも勇児の足元にも。私の弱さを、やんわりと包んでくれるように。「ねえ、勇児君、これだけは信じて。さっきの言葉、とても嬉しかった。私の一生懸命なところが好きだって。本当はね、私、何にも自信がもてないの。...
『明日の私』

『明日の私』第13章「反則」(5)

「いや、そうじゃなくて。何て言ったらいいのかな」 思わず笑ってしまった自分を仕切り直すように、勇児は頭をかいた。私の鈍感さが、勇児の困惑をさらに深めた。「君の、ことが、好きなんだ。だから、俺とつきあってくれないかな」 頭頂から溶岩が噴き出し...
『明日の私』

『明日の私』第13章「反則」(4)

二学年も終わりに近づいた二月の末。冬の間、積雪のために自転車を利用することはできない。私はローカル線を利用して通学していた。 『津軽長寿園』にも同じ線の列車で通うことができた。ボランティアを終えた帰り道。雪の降りしきる夜の中を家の最寄り駅で...
『明日の私』

『明日の私』第13章「反則」(3)

『津軽長寿園』の職員で私たち高校生のボランティアを受け入れる窓口が、柏木の教え子の渡辺さんだ。彼は丸々とした童顔に、見るからに人柄のよさそうな笑みを絶やさずに私に接してくれた。さらに、その渡辺さんに紹介されたベテランの介護士が葛西さんだった...
『明日の私』

『明日の私』第13章「反則」(2)

「で、どうやって参加するんですか?」 私は身を乗り出した。「うちの学校のJRC部で毎月主催してるボランティア活動の、二月の回に参加すること。そしてそれを足がかりに自主的に施設に通って、やらせてもらえる範囲の仕事を可能な限り一生懸命こなすこと...
『明日の私』

『明日の私』第13章「反則」(1)

目標に向かう道のりは覚悟していた以上に険しかった。 部活をしていないことから、推薦書と調査書と自己PR書に記入することができるような特徴を、私は何一つもっていなかった。 例えば学級でトップの成績を維持し、評定平均値でずば抜けた結果を残してい...
『明日の私』

『明日の私』第12章「三者面談」(7)

「弘前城都大学を推薦で受験するって言っても、狙う学部によって話はだいぶ違ってくる。どこを受けたい?」 ようやく口を開いた柏木は、眉間に皺を寄せていた。「教育学部です。中学校教育専攻の社会専修です」 柏木の眉間の皺が一層深まったように見えたの...
『明日の私』

『明日の私』第12章「三者面談」(6)

「弘前城都大学を受験したいって、三者面談のときには柏木先生にも話さなくちゃならないんだけど、お母さんが了解してるかどうか確認されると思う。そのときに、先生の前ではっきり認めてもらいたいの」 美智子には、柏木の前で消極的であいまいな態度をとっ...
『明日の私』

『明日の私』第12章「三者面談」(5)

秋には高校生活最大のイベントとも言うべき修学旅行があり、さすがにその期間は学習から離れてしまった。しかし地元に帰ってきてすぐに、柏木と相談したうえで自分なりの学習プランを立てた。私は弘前城都大学を目指す決意をもう一度新たにすると同時に、その...