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二月二十日、月曜日。倉科は職員室の書棚から、六年前、二〇〇六年のファイルを取り出した。
担任教師として仕事を始めた当初から、年度ごとに自分が関わったすべての生徒たちの情報を紙に落としてファイリングしていた。世の中、何が起こるか分からない。過去の情報が必要とされることは思いのほか多い。今回の一戸達樹の件は、まさしくこの場合にあたる。
担任として卒業学年を受けもてば、進路指導の関係上、おのずと書類が増えるものだ。コンピューターの利用が当たり前になった今でも、不思議とこの事実は変わらない。年度と学籍番号順に整理されたクリアフォルダの中から、一戸達樹のものを探しあてた。
放課後、校内放送で自分の名前が呼ばれていることに、倉科は気がつかなかった。
体育館で部員の指導にあたっていると、生徒が発する声や音に掻き消されて校内放送が聞き取れない。放送から数分後に体育館に直接やってきた同僚に呼び出され、ようやく二人の刑事の来校を知った。キャプテンにその後の練習の指示を与え、一旦職員室に向かった。事前に準備していた書類を手に、応接室に急いだ。
「失礼します」
部屋に入ると、二人の刑事はソファから立ち上がった。
「お待たせして申し訳ありません。倉科です」
初めて会った人間に向けて注ぐ、意味を含まない眼差し。桜田を見る目に、倉科は細心の注意を払った。桜田が同質の眼差しをもって応えた事実に、倉科は心からの安堵を得た。
「こちらこそ、お忙しいところお邪魔して申し訳ありません。昨日お電話差し上げました、桜田です。こちらは山脇刑事です」
紹介された若い刑事が頭を小さく下げた。二人の刑事から名刺を受け取りながら、倉科はソファに座るよう促した。
「この冬は例年よりも初雪が早かったんです。北国の寒さに、驚かれたのではないですか?」
「いえ、寒さはそれほどでも。しかし、雪による道路状況には苦労しました」
「慣れていないと怖いですよね」
「本当に。それでは、お忙しいところ申し訳ないので、さっそく本題に入らせてください。まずは一戸達樹について、話しを聞かせてください」
桜田は電話で話したノートの件に、はじめから飛びつこうとしなかった。
「私が保管していた限りの資料は集めておきました」
倉科は要録簿をはじめとした資料一式をテーブルの上に載せ、指先で桜田の方に押しやった。その瞬間、桜田の視線がファイルではなく倉科の手に貼りついた。試みに差し出した手をゆっくり引き戻すと、桜田の視線もそのままついてきた。何かに気づかせてしまったか。倉科は無関心を装いながらも手を止めなかった。
桜田は倉科の手を視線で追いかけ過ぎたことに気がついたのか、少し慌てたようにファイルに手を伸ばした。資料の一つを手に取り、ページをめくった。全体にざっと目を通している。
「先生からご覧になって、特に気にかかるというか、変わったところはありませんでしたか?」
書類に視線を落としたまま、桜田は言った。倉科は準備していた通りの言葉を口にした。
『永遠の花嫁』第一章「早雪」A3
『永遠の花嫁』
