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二月十四日、火曜日。所轄に特別捜査本部が設置され、会議が開かれた。
会議を始めるにあたり、「気をつけ、敬礼」の号令がかかる。
特別捜査本部が立つのは、あくまでも初動捜査を終えた段階で犯人が分かっていない場合に限られる。
『渋谷新聞記者刺殺事件』
それがこの事件の名称、いわゆる「戒名」だ。戒名は他の事件と混同しないよう、その事件特有のものにしなければならない。渋谷で新聞記者が刺殺された事件。ひねりはないが、これまでに同じ名前が付けられた事例はないということなのだろう。
殺人事件であるため主管課は捜査一課ということになる。
一課長の任には、通常叩き上げのノンキャリアが就く。捜査一課は殺人事件を専門に捜査する「強行犯捜査」の兵達で構成されている。その長ともなれば高い人材掌握術が必要とされ、現場を経験してきた者でなければとても務まらない。
特別捜査本部には様々な部署から四、五十人もの刑事がかき集められる。
まずは事件のあらましが説明された。実際の捜査会議では、ホワイトボードを使って事件の概要を説明する、あるいはそこに写真を貼り出すなどということはしない。必要ならばメモをとることになるが、情報はすべて口頭で伝達される。仮に細部に至る資料を作った場合、捜査関係者が資料そのものを紛失する事態が懸念される。そのようなことが起きようものなら、逮捕前の容疑者の逃走を許すような最悪の事態を招きかねない。
次いで行動を共にする相棒が発表された。これから容疑者逮捕までの間、相棒と二人で捜査にあたる。その主な役割も、この場で発表される。警視庁付きの刑事である桜田とは、所轄の刑事が組むことになるのが通例だ。この発表の瞬間が、何度同じ経験をしてきても楽しみなものだ。
相棒が女であることを知ると、相手は一様に顔をしかめる。今まで女と組んだ経験もないくせに何が分かるのかと内心毒づいてみるのだが、未知のものに不安を感じるのは誰でも同じことなのだろう。
初めに桜田が、次いで相棒となる山脇が名前を呼ばれて立ち上がった。
若い。それが桜田の山脇に対する最初の印象だった。
桜田と山脇は「鑑取り」を命じられた。容疑者と被害者をはじめとした事件に関わる者同士の繋がりや、彼らの日常生活に関する情報を収集することになる。事件解明の鍵となる出来事を見つけ出すことが重要な仕事だ。「地取り」と呼ばれる役割と異なる点は、捜査対象となる空間の範囲だ。事件の発生現場を中心とした比較的狭い範囲に限定し、目撃者探しなどの聞き込みを担うのが地取りである。鑑取りの役割を担う桜田たちは、それ以上に広い範囲を捜査の対象とする。
桜田と山脇は被害者である一戸達樹の出身地、青森県弘前市に隣接するH町周辺での鑑取りを任された。青森まで出向いて一戸の周辺を洗い出すことになる。
殺された一戸達樹の件については、まず初めに彼の高校時代の担任だった倉科という教師から話を聴くことになっている。そのための連絡を取る簡単な作業を山脇にまかせた。しかし、留守だった相手が折り返しの電話をよこした際、その通話をつい横取りしてしまった。倉科と山脇との通話に割り込んだ後、受話器をフックに戻しながら、桜田は小さく溜息をついた。
『永遠の花嫁』第一章「早雪」B3
『永遠の花嫁』
