『永遠の花嫁』第二章「粉雪」A13

『永遠の花嫁』

「そう言えばこの食堂で、三人で話していた姿を定期的に見かけました」
 倉科は高橋の顔を見た。
「三人と言いますと?」
「一人目はここの入所者だった小田桐(おだぎり)(ひろ)()です。週に一度くらいのペースでしょうか。彼のところにNPOからボランティアが訪ねてきていました。これが二人目です」
「それは男性ですか? 女性ですか?」
「男性です」
「何のためのボランティアですか?」
「大学で心理学を専攻していると言っていました。その一環としてNPOに所属して、心のケアを必要としている対象に接する経験を積みたいということでした」
「名前は、何て?」
「山本と名乗っていました」
「どうして小田桐紘輝という入所者にだけそんな人間がついたんですか?」
「山本君本人から直接連絡がありました」
「山本が小田桐を名指ししたということですか?」
 高橋は頷いた。自分の中で当時の記憶を整理し終えた、そんな仕草に見えた。
「小田桐君は父親からひどい虐待を受けて育ちました」
 虐待を受けた者によく見られる傾向として、小田切には誰かとコミュニケーションを取りたいと思っていてもうまく関係を築くことができないという、負の特徴があった。そこに人の話を聞く立場に徹する訓練を積みに山本が現れたものだから、願ったり(かな)ったりだったと高橋は続けた。
 山本がなぜ小田桐の存在を知ったのか、そのことに疑問が残る。さらに、そこにどうして椿が関わることになったのか。
「三人目が川村椿ということですか?」
「そうです。山本君が小田桐君を訪ねてくるたびに、椿さんも会話に加わっていました」
 行き過ぎた発想かとも思ったが、倉科は思ったままを口にした。
「小田桐か山本か、どちらかが椿を恋愛の対象として見ていたとは考えられませんか?」
 高橋は特に表情を変えなかった。
「もしかしたらそうだったのかもしれません。しかし傍から見た限りでは、とてもそんなふうには思えませんでした」
「山本の身元は確かでしたか? 所属していたというNPOに照会はしましたか? 確認は得られましたか?」
 言葉が次々と湧き出てくる。つい体が前のめりになってしまう。高橋が少しだけ身を引き、間合いを取り直したのが分かる。
「はい、我々は彼の素性を確認しています。彼は、彼自身もよく知らないうちに我々の厳しいチェックを受けてここに通うことを許されていました。彼が心理学を専攻している学生でもなく、NPOの職員でもないことを、我々は把握していました。それでも彼にこの施設に通うことを許可していたのは、彼が椿さんにとって有益な人物だと判断したからです」
「何か特徴はありませんでしたか?」
 高橋は記憶を手繰り寄せるように目を閉じた。

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