「左目の上に印象的な傷がありました」
倉科は食堂でテーブルを挟んで座り、談笑する三人の若者の姿を思い描いた。顔を知らないのは小田桐だけだ。あとの二人、椿はもちろんのこと、山本と名乗る男の姿をありありと想像することができる。
「小田桐と山本の関係はいいとして、そこに川村椿が加わることになったきっかけは何だったのでしょうか?」
「そこまでは分かりません。三人のうちの誰かから話を聞いたわけでもありませんし、何年も前の話ですから」
「そうですよね。すみません。ただ、椿は積極的に他人の話に加わるようなタイプではないような気がして。違和感を覚えたんです」
「実際に三人で会話をしている光景を思い出してみても、彼女が会話の中心となっている様子ではありませんでした」
小田桐と山本の会話を横で聞いて微笑んでいる。そんな様子だったという。
「三人は会話だけを?」
「小田桐君と山本君と椿さんの三人は、点字講習にも熱心に参加していました。黙々と作業するのが性に合っていたのかもしれませんね」
「小田桐紘輝は、今はどうしていますか?」
「故郷の愛知に戻って、自動車部品製造の中小企業に就職しました。仕事はまだ続けているはずです」
「少しだけ話を聞きたいのですが、連絡先を教えてくださいませんか?」
自分でも意外に思えるほど、口調に切実がこもった。
「こちらにも取るべき手段というものがあります。私から小田桐君に連絡を取ります。彼が了承すれば、倉科さんに連絡を入れます」
「分かりました。それでは高橋さんからの連絡を待つことにします」
「そうですね、二、三日中には連絡できると思います」
倉科は携帯電話の番号を記入したメモを高橋に渡した。
「実は」高橋が倉科を真っ直ぐに見据えた。「倉科さんに渡したい物があります。事務室まで来てください」
高橋は歩き出した。倉科はその後に従った。事務室に入るなり書類棚に体を向けると、高橋はしゃがみ込んで棚の下にある引き戸を開けた。なかば書類棚に身体を隠すようにしながら棚の奥に手を伸ばした。そして茶色い紙袋を手に立ち上がると、倉科の前にそれを差し出した。
「何ですか?」
倉科ははじめ、紙袋に手を触れようとはしなかった。
「椿さんが愛用していたものです」
倉科は顔を上げ、高橋の目を見た。
『永遠の花嫁』第二章「粉雪」A14
『永遠の花嫁』