『永遠の花嫁』第二章「粉雪」A20

『永遠の花嫁』

 先生は、以前私に教えてくれましたよね。家族がいるから、家族を守るためになら強くいられると。私にもようやくそのことが理解できました。
 長々と書いてしまいました。
 私たち新聞記者の間にも、筆が走るということがよく言われます。これは決して良い意味では用いられません。まるで筆が勝手に走るような勢いで書いてしまった文章には、思い込みや自己満足が多く含まれるものです。この文章にもまた、このような傾向があることでしょう。しかし、おそらく一連の出来事を通じて先生のなかに最後の最後まで残り続ける疑問があるとすれば、なぜ私がそうまでして椿を守ろうとしたのかということなのではないと思うのです。私としても、せめてこの一点についてだけでも先生のご理解をいただければ、思い残すことはないように思われ、この手紙を書くことにしたのです。
 先生には私と椿のことに、この手紙を読んでいただいている時点でどのような関わりをもっていただいているか分かりません。もしかしたら多大なご迷惑をおかけしているかもしれませんね。そのときは不出来な教え子のためにとお考えいただき、一笑に付して適切なところで関わりを断っていただければと思っています。
 しかし椿のことだけは、どうかいつまでも心に留め置いてください。私が自由でいられる間に、彼女にとって最善の環境を作りたいとは考えています。しかし何か不具合が生じたときのために、彼女を守る存在が必要になると思うのです。現時点で私と椿が立てている計画すら先生にお伝えするわけにはいかないことを申し訳なく思います。このこと自体、椿の身を守るための対策だとご理解ください。それでも、私のあとに椿を見守る役を先生にお願いしたいのです。身寄りがないことは、椿も私と同じなのです。その辛さを身をもって知っている先生にしか、安心してお願いすることができないのです。先生。どうか私の身勝手なお願いを聞き届けて下さるよう、お願いいたします。
 年が明けました。東京にも珍しく、深々と雪が降り積もっています。正月三が日に降る雪を『(さん)(ぱく)』というそうです。青森にも『三白』は降っているでしょうか。正月休みのために帰省している社員が多く、寮はいつもより静かです。私には帰省する先などありませんが、先生には近々会いに行きたいと思っています。
 最後になってしましましたが、先生とご家族の皆様がお元気でいてくださるよう、心から祈念しております。                                   敬 具
二〇一二年一月二日
                                       一戸 達樹              
            ◆
 手紙をそっと折りたたみ、元のように封筒に入れた。そして聖書とともに鞄のなかに仕舞った。頬杖を突き、車窓に視線を走らせた。窓ガラスに、記憶のなかの達樹の顔を思い描いてみる。印象ははっきりとしているのに、細部にまで線を走らせることはできない。倉科は、人間の記憶の曖昧を呪った。

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