『永遠の花嫁』第二章「粉雪」B12

『永遠の花嫁』

「そう言えば、もう一つ。桜田、お前、倉科という教師を捜査に関わらせているようだな。あいつからは離れろ。一般人だ。捜査に首を突っ込ませるわけにはいかない」
 桜田は答えに窮した。しかし、佐藤は桜田の答えを求めてはいなかった。これは申し渡しであり、命令だ。佐藤は再び桜田に背を向けた。そして歩き出した。背中越しに右手を挙げ、桜田と山脇に無言で別れの挨拶をした。
「さあ、私たちも帰ろう。難しい話はまた明日」
 佐藤の言葉、倉科に対する物言いが気になった。しかし、今は久しぶりに自分のベッドで眠ることができる事実を、桜田は素直に喜ぶことにした。山脇と別れ、駅へと歩いた。
 列車の規則的な鼓動に揺られながら、目の前の窓をぼんやりと眺めた。昼間ならば外の景色が流れているはずの場所に、今は黒い闇が重く貼り付いている。そこに自分の顔が映し出されている。
 この目は妹と同じだ。目だけでなく、そこに映し出されたものの何もかもが、寸分違わず同じなのだ。そう思うたびにちくりと胸が痛む。そこに死が横たわってさえいなければ、決して嫌悪するような事実ではない。
 妹と目が似ている。
 双子という生まれ方は、互いが同じ細胞を分け合い、相手を自分の体の一部であるかのように受け入れるところから始まる。しかし、生活環境の変化の中でしだいに二人の関係にも違いが生じる。
 さらに深く一体であろうとする同一化と、まったく別の存在として自分と相手との価値を分かとうとする差別化。
 その変化が、相手との差別化を求めるものであるとき、同じであることへの憎しみが生まれる。桜田は同一であることを望んだ。しかし、妹は異なることを求めた。二人で作り上げてきた空間に安らぎを得る者と、その世界の狭さに焦りを抱く者とに分かれてしまった。
 妹は、すでにぼろぼろだった。その上さらに、両親を失った不幸な事故を、妹一人がまともに請け負ってしまった。どうして自分だけが無傷のまま生き残ってしまったのか。そんな思いが妹をさらなる泥沼に引きずり込んだ。妹は純粋に過ぎた。
 何気なく列車の窓を見つめていたはずだった。しかし、知らないふりをしてそこに意思を働かせていることを、桜田は自覚していた。二人とも同じ形をした目だけをそのままに、頬を削ぎ眼嵩を窪ませ、肌を青白く染め上げるだけでいい。そこには十年近くも前に見た、最期の瞬間の妹の顔が出来上がる。闇の鏡に浮かび上がる自分の顔が、クスリに侵された死者の顔と重なった。
 その光景は、桜田が記憶を失った後に再構築されたものだ。他者によって繰り返し語られることで、桜田の脳に新たに烙印された。何度脳細胞が新しく生まれ変わっても、あるいは増殖を続けても、繰り返し刷り込まれたその記憶が消えることはない。新たに植え込まれた記憶は、桜田にとって温かいものなどではない。それが甦るたびに怯え、恐れ、狂わされる。

タイトルとURLをコピーしました