「森下礼子をマークすることによって得られたはずの収穫は?」
「売人です。森下礼子に直接薬を売っていたのは、竜盛会の田辺康之というチンピラです」
竜盛会。老舗の暴力団ではあるが、ここ十数年の間にクスリの売買で大きな利益を上げていると目されている組織。礼子は一戸達樹の刺殺に関わることで何らかの報酬を得たのだろう。その報酬がクスリそのものであることは容易に想像がつく。報酬であるはずのものによって、礼子はその若い命を無残にも散らすことになった。
「クスリに関する、田辺の上の人間は?」
「島崎竜司。組織のナンバースリーに位置する、大物だそうです」
「そのほかには?」
「実は、森下礼子はクスリの件で複数の課によってマークされていたことが分かりました」
マークしていたのならなおのこと、森下礼子の名前が捜査線上に浮上した段階で、各課の間で情報を擦り合わせることができたはずだ。課ごとに捜査対象としている人物の秘匿性を保つことが必要な場合もあることを知っている桜田だからこそ、その難しさが身に染みる。しかし、人の命よりも重いものがあるだろうか? 森下礼子の命を最優先に考えていれば、情報を共有することによって彼女を救うことができたはずだ。
「一戸達樹は森下礼子に、クスリと金の流れに関する情報を餌に呼び出された?」
「これまでの捜査から、本部ではそう考えています」
桜田が山脇に指示した捜査内容が、新たな遺体の発見につながった。
いずれは森下礼子の遺体が発見されることに違いはないが、誰も予想していなかったところから発見された遺体が何を語ってくれるのか。偶然とはいえこの線を切り開いたのは桜田の読みであり、山脇の観察力だ。
桜田にしても、捜査に貢献できたことが嬉しくないわけはない。しかし、浮足立つ部下を前に桜田はかえって冷静でいなければならない。
「一戸達樹殺害の実行犯については?」
「今のところ田辺康之の線が有力です。森下礼子に一戸達樹を呼び出させたうえ、嘘の目撃証言をさせたと見る線です」
捜査本部の考えの妥当性に、桜田は納得した。そのうえで森下礼子の死の上に、捜査を進捗させる上での好材料が山ほども残されていることに気がついていた。
礼子の部屋は内側から施錠され、ドアチェーンがかけられ、遺体周辺以外は部屋を荒らされた痕跡もなかった。ということは、薬物を通じて礼子と繋がりのあった人間は、彼女の死を知らずにいる可能性が高い。
「クスリの件だけでなく一戸達樹刺殺の線上に、田辺と島崎が関わった証拠が挙がればいいわけね?」
「はい。種類にもよりますが、残されていた薬物を分析すれば、その産地や密輸ルートがほぼ特定できます。二人の関与を示す重要な手掛かりとなり得ます」
森下礼子に流れていたクスリが田辺と島崎を経由していることはすぐに証明することができる。
「そこに一戸を殺す動機がどう絡んでくるか。そこをあたってみます。桜田さんは?」
「私はこのまま青森に飛ぶ。明日か明後日にでも、ついてきてもらうことになると思う。いいわね」
「もちろんです」
「その前にもう一つ。二〇〇二年から二〇〇三年の間に衆議院議員だった男のうち、息子が都議を務めていたケースを洗って」
「分かりました」
『永遠の花嫁』第四章「牡丹雪」B3
『永遠の花嫁』