あくる日も、そのあくる日も、午前十時から午後三時までを目安に清美は街を歩き回った。疲れてはベンチを見つけて座り、喉が渇いては自動販売機や店舗で飲み物を買った。幸運にも図書館があれば、のめり込めないまでも本を読んで時間を潰すことができた。それまでに味わうことのなかった自由が、これほどまでに自分を苦しめるものだということを知った。
二時になると何かしらの食べ物を買い、部屋に戻る準備をした。特に空腹を感じることはない。ただ習慣として生活のサイクルを守らなければならないという意識だけが、清美にそうさせていた。
ホテルに戻っても、毎日することは同じだった。これまでほとんど見ることなどなかったテレビを、意味もなく何時間も眺めた。それに飽きるとゆっくりと時間をかけてシャワーを浴び、ベッドに入った。眠ることが怖かった。それでも、明日も歩くのだから今は体を休めなければならないのだと自分に言い聞かせ、とにかくベッドに入って目を瞑っていた。いったい自分は何をしているのか、何を待っているのか。考えないようにしながら。
その日も、前日の夜のうちにベッドに入ったものの明け方まで眠ることができなかった。短い眠りの後に起き出し、身支度を整えながらテレビを点けた。そこに広島の街が映し出された。テレビの画面には黒い服を着た一団が、整列して黙祷を捧げる様子がある。そうかその日かと清美は思った。スピーカーからは、戦後二十七年という声が聞こえてくる。
この国には死が溢れている。父も母も、姉も。
そして清美は、自分が手に掛けた男の死に怯え続けている。
夢に現実にと、清美のなかで眠っていた記憶が現れ、つながり、再び形をもとうとする。
一人でいてはいけない、一人でいてはいけない、一人でいてはいけない。
誰もが清美を守ろうとしてくれていた。そして清美は、他人に助けられながら生きていける場所を得られていたはずだった。
皆の努力をないがしろにしてまで、なぜ鉄輪を出てきてしまったのか。
守られるだけではない。誰かを守りたかった。そうすることで、人として誰もが経験し得る当たり前の生活を手に入れてみたかった。誰かのための自分でいたかった。
しかし、それが独りよがりな思いであることを顧みることができずにいた。しょせん儚い夢だということになど気がつくことができなかった。
あの夜、ふと気がついてしまった。自分が明子ではないことに。
そして恵三と麗とが、二人寄り添って静かな生活を取り戻してきたことに。二人がどんな思いをして生活を成り立たせてきたのか。その過程になど思いを馳せることすらしなかった。