『咲く野の日暮れは』「二人静」

二人静3

鉄輪を去るにあたり、やらなければならないことが次々と頭に浮かんだ。そのうちのひとつが、浅草の祖父に高梨麗の様子を見に行ってくれるよう依頼することだ。 祖父はこの頃になってようやく、浅草の旅館の経営を長男の孝志に譲ったばかりだ。七十を目前に隠...
『咲く野の日暮れは』「二人静」

二人静2

秋と冬を越え、春を過ぎて再び初夏を迎えた。 この季節、客室に活けるための山野草には事欠かない。まだ小鳥たちのさえずりさえ響かない早朝、女将と連れ立って裏手の山林に浅く分け入ることが日課になっている。 ふと、足元の可憐な白い花に目が留まった。...
『咲く野の日暮れは』「二人静」

二人静1

夏椿なつつばきの白く小さな花がぽろぽろとこぼれ落ちるのを見ていると、急ぎの要件があるからと女将に声をかけられた。 はいと返事をし、橘たちばな清美きよみは箒で庭先を掃く手を止めた。下駄をからからと鳴らして玄関に入り、框かまちに上がった。そこに...