書評

9.『江戸川乱歩傑作選』「二銭銅貨」 江戸川乱歩著 新潮文庫 平成19年6月10日第90刷

夏は読書の季節です。そう感じるのは私だけかもしれませんが、小学校から中学校、高校、大学と、学校と名のつく各種教育機関が夏季休業に入ると、本を読む機会も読ませようとする動きも活発になるように思います。最近では読書感想文を、希望する児童や生徒に...
書評

8.『空港にて』「空港にて」 村上龍著 文藝春秋 2005年5月10日第1刷

『空港にて』は短編集です。その中に収められた表題作、「空港にて」は、どこか切ない物語です。 主人公の女性は、ある映画を観たことから、義肢装具士になることを夢見るようになります。その仕事の内容や職に就くための情報を集めようと、何度もネットで検...
書評

7.『絵のない絵本』 アンデルセン著 矢崎源九郎訳 新潮文庫 平成22年6月10日第109刷

私たちは自ら本を選び、読みます。面白いと感じれば読み進めますし、そうでなければ途中で投げ出すこともできます。本に対する接し方はまったくの自由です。しかしその一方で、読み手である私たちの力の方が、本に、あるいは作家に試されていると感じることは...
書評

6.『ある小さなスズメの記録』 クレア・キップス著 梨木香歩訳 文藝春秋 2011年2月25日第4刷

職場の一画に、毎年夏になるとツバメの番つがいが巣を作ります。高い位置に巣があるため、普段は中にいるはずの雛の姿を見ることはできません。しかし運よく餌をくわえた親鳥が帰還するタイミングに出くわすと、ピイピイという鳴き声を聞くことができるのと同...
書評

5.『李陵・山月記』「山月記」 中島敦著 新潮文庫 平成12年2月15日58刷

小学校・中学校・高等学校を通じ、国語の教科書で接した物語で思い出深い作品は何ですか? こう問われたら、皆さんは何と答えるでしょうか。自分が幼い頃に読んだ作品を今の子どもたちも読んでいることを知ると、何か特別な秘密を共有しているような親近感さ...
書評

4.『智恵子抄』 高村光太郎著 新潮文庫 平成17年6月10日120刷

数年前、カナダに出張しました。 英語が得意かそうでないかは個人によって大きな差がありますが、私は英語が苦手です。いわゆる受験英語ならばまあ何とかなるのかもしれませんが、会話となるとまるで駄目です。ネイティブスピーカーを目の前にすると、英語が...
書評

3.『放課後の音符(キーノート)』「Brush Up」 山田詠美著 新潮社 1989年10月10日発行

主人公の「私」と、その友人である雅美の物語です。 二人は同じ中学校で仲が良かったものの、普通高校に進学することになった「私」に対し、帰国子女でバイリンガルの雅美はアメリカンスクールに進学することを決め、別々の進路を取ります。しかし二人の友情...
書評

2.『放課後の音符(キーノート)』「Sweet Basil」 山田詠美著 新潮社 1989年10月10日発行

男女の間に友情は存在し得るのでしょうか? 私自身のごく浅薄な経験から言って、この問いを投げかけると二つに分かれた意見が真っ向から対立することになります。数人の男女が集まるような場面でこの話題を持ち出すと、それぞれが自身の経験を語ってくれるこ...
書評

1.『放課後の音符(キーノート)』「Body Cocktail」 山田詠美著 新潮社 1989年10月10日発行

本との出会いは人とのめぐり会いに似ていると思うことがあります。初めは偶然でも、どちらか一方、あるいは両者の意思が働いて、うまくいけば次に会う約束が結ばれます。会いたいという思いが一方を、あるいは両者を走らせます。本についても同じことが言えま...
小説

蓮花24(最終回)

恵三はごつごつと太い指にぐい呑をのせ、ゆっくりと回している。なかの液体がとろとろとたゆたう。その透明な静謐を二人で見つめた。佳佑は恵三の言葉を待った。「君がここに清美を訪ねて来るときのことを二人で何度も考えてきたし、話し合ってもきた。苦しみ...