「血のつながり、なんですかね」
母と自分との間にも、敢えて言葉にしなくても分かち合い、労わりあえていた部分があった。
「あなたは? あなたが辛いときには、誰が助けてくれるんですか?」問う必要も、あるいは答える理由もない言葉が口をついて出た。「すみません。答えてくださらなくていいんです。ただ、あなたの物言いに」
ご家族に対するちょっとしたぎこちなさを感じただけなんです。こぼれ落ちそうになった言葉を、かろうじて飲み込んだ。何を言っても言い訳にしかならないと知っていながらも、言葉を続けてしまう自分が恥ずかしかった。
「娘と言ってはいますが、私にとって本当の娘ではないんです」
思わず目を見開いた。一見の男にそこまで話す必要などない。
「それでも、二人はこんな私を受け入れてくれました。どんなに感謝しても足りないくらい、過分な幸せをもらって生きることができました」
あの人はその必要を感じているのか、自身を語ることを止めない。
「こちらの店主とあなたとは、ご結婚は?」
性懲りもなく、訊きたいと思っている問いを発してしまう。
そのとき、暖簾がゆっくりと割れた。厨房から若い男が出てきた。小さく頭を下げ、カウンターを横切って店の出入り口へと向かった。ガラガラと引き戸を開く音が聞こえるが、佳佑は自分があの人と呼ぶ女性から視線を外すことができなかった。あの人は音のする方向にちらと投げた視線をすぐに戻した。
「入籍という意味での結婚はしていません。事実上の婚姻状態とでもいうのでしょうか。店主と私との間の子は、認知という方法で明確な親子の関係にあります」
ほんの少しだけ、時間が欲しかった。鍋の中に箸をのばした。残った鴨肉とねぎ、水菜は、すべて合わせても小鉢ひとつに収まった。