「やはり、量的にも多いとの印象を受けました」
間違いない。伊藤の言葉に、桜田はそう思った。
階下でかすかに音がする。部屋の入り口から桜田が顔を出すと、数人の男たちが階段を上ってくるのが見えた。
「遅くなって申し訳ありません」
先頭の男がそう言った。五人。桜田が数える先から、男たちが次々と部屋の中に入ってくる。桜田と山脇、そして伊藤を加えれば八人ということになる。
「よろしくお願いします」
男たちは一人ひとり名乗った。リーダー格の男は畠山といった。桜田の声に皆が頷いたのを確認し、車座になるよう促した。
桜田は円の中央に、まだ白いままの紙を一枚置いた。そこに不動産会社社長の鳴海の証言を基にした、川村家の平面図を描き、島崎の身柄を拘束するためのプランを説明するつもりだ。
「東に面した玄関から私と山脇刑事が入ります。それ以外の三方を固めてください」
勝手口はここ。台所の奥、玄関とは反対の、西に位置している。南側に面した掃き出し窓からの出入りが簡単な構造だ。逃走するとしたらここからの可能性が高い。南に三名、西に二名、壁しかない北には一人を配置するのが最善だ。島崎の身柄確保が最優先である。皆が配置について十分後、十一時に突入する。桜田は要点を明確に伝えることに意を注いだ。
九時になろうかという時刻。観察と配置を含め、時間的な余裕はない。一同が腕の時計を見る。現在の時刻が合っているのか、確認する必要があった。暖冬のために例年よりも量が少ないとはいえ、外には雪が積もっている。夜になり、気温は急激に下がっている。戸外で突入のタイミングをはかるのは、三十分がいいところだ。
「島崎は、かつてクスリのルートを使って拳銃の密輸も手掛けていたようです。高性能の拳銃を所持している可能性があります。海外では射撃の訓練に多くの時間を割いていたようです」
島崎が銃を所持している可能性については、警視庁の捜査本部から知らされている。畠山が自分の腹部をパンパンと叩き、すでに防弾チョッキを着用していることを示した。
「ハタさん、ヘルメットは持ってこなかったんですか?」
刑事の一人が防弾チョッキの着用をアピールした畠山をからかった。
「頭に弾が飛んできたらよけるよ」
そう言って畠山が頭を動かして見せたのを皮切りに、皆が声を抑えつつ笑った。
「一旦周囲に散ってから持ち場に詰めてください」
川村依子の家は、玄関の先に達樹の家がある東方面以外は茂みに囲まれている。男たちが身を隠すにはもってこいのロケーションだ。
「では、始めましょう」
十一時二十分前。桜田の声に、彼女と山脇を除いた皆が一階に降りた。身を隠しながらその全員が一旦現場から遠ざかる。それぞれが各方面からこの家を包囲し、少しずつその範囲を狭めていく。いよいよその時が来るまで、桜田と山脇はこの場で待機する。
つい頻繁に時計を見ようとしてしまう自分を制した。最も落ち着いて事にあたらなければならないはずの自分が焦っていたのでは、どんな失策によって事を仕損じるか分からない。桜田は浅くなろうとする呼吸を整えるために、深くゆっくりと息を吸い、そして吐き出した。
『永遠の花嫁』第五章「終雪」B8
『永遠の花嫁』