書評

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16.『夢十夜・草枕』「夢十夜」 夏目漱石著 集英社文庫  2009年8月8日第15刷

夏目漱石の作品に関する研究成果は膨大な数にのぼります。そのため、ある作品についてどのような論考が成されているのかを調べるだけでも、相当の労力を要します。大学の文学部に属する学生が書いたものや、趣味で論考を手掛けている方々の記述まで合わせると...
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14.『孤独か、それに等しいもの』「孤独か、それに等しいもの」 大崎善生著 角川書店 平成16年7月3日第3版

物事が理解しにくい、あるいは不可解だという感覚は、その立場になって考えることが難しいからこそ発生します。私にはどうにも想像しにくいと思えることがいくつもありますが、そのうちの一つが双子の関係についてです。私には兄弟がいますが、双子ではありま...
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13.『夏の庭』 湯本香樹実著 新潮文庫 平成6年2月25日発行

ある年のことです。7月の終わりから8月の初旬にはとても暑い日が続きました。私が担当する部活動は屋内競技であるため、基本的には天候に左右されずに活動することができます。しかし、外の気温が上がると体育館は35度を超えることもあり、その場合には練...
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12.『帰れぬ人びと』「川べりの道」 鷺沢萠著 文春文庫 1998年6月5日第7刷

家族の中で、果たすべき役割を考えて行動している人は多いはずです。 私は特定の人に特定の役割を当てはめようとは考えていません。これを当然のようにやろうとすると、男は男らしく、女は女らしくといった場合の「らしさ」とは何かというような、途方もなく...
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11.『校本宮澤賢治全集』「第二巻」 宮澤賢治著 筑摩書房 昭和48年7月15日初版発行

小学校6年生のときの担任の先生には、実にたくさんのことを教わったという実感があります。先生はすべての教科において、授業の内容を私たちに印象深く伝えるために、様々な工夫をしてくれました。当時のことを思い返してみると、準備に相当の時間を割いたも...
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10.『停電の夜に』 ジュンパ・ラヒリ著 小川高義訳 新潮文庫 平成19年6月10日第11刷

まったく異なる人格や経験をもつ登場人物たちが互いの内面を認め合い、補い合おうとするところに物語の面白さが生まれます。やがて物語の進展とともに、特定の登場人物の関係が度合いを深めていきます。特に男女の間にあっては、相手が自分にとってなくてはな...
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9.『江戸川乱歩傑作選』「二銭銅貨」 江戸川乱歩著 新潮文庫 平成19年6月10日第90刷

夏は読書の季節です。そう感じるのは私だけかもしれませんが、小学校から中学校、高校、大学と、学校と名のつく各種教育機関が夏季休業に入ると、本を読む機会も読ませようとする動きも活発になるように思います。最近では読書感想文を、希望する児童や生徒に...
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8.『空港にて』「空港にて」 村上龍著 文藝春秋 2005年5月10日第1刷

『空港にて』は短編集です。その中に収められた表題作、「空港にて」は、どこか切ない物語です。 主人公の女性は、ある映画を観たことから、義肢装具士になることを夢見るようになります。その仕事の内容や職に就くための情報を集めようと、何度もネットで検...
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7.『絵のない絵本』 アンデルセン著 矢崎源九郎訳 新潮文庫 平成22年6月10日第109刷

私たちは自ら本を選び、読みます。面白いと感じれば読み進めますし、そうでなければ途中で投げ出すこともできます。本に対する接し方はまったくの自由です。しかしその一方で、読み手である私たちの力の方が、本に、あるいは作家に試されていると感じることは...
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6.『ある小さなスズメの記録』 クレア・キップス著 梨木香歩訳 文藝春秋 2011年2月25日第4刷

職場の一画に、毎年夏になるとツバメの番つがいが巣を作ります。高い位置に巣があるため、普段は中にいるはずの雛の姿を見ることはできません。しかし運よく餌をくわえた親鳥が帰還するタイミングに出くわすと、ピイピイという鳴き声を聞くことができるのと同...