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弘前を発って帰京した桜田と山脇が夜の捜査会議にすべり込んだ途端に、号令によって会議は閉じられた。捜査員たちが次々と本部をあとにするなか、桜田と山脇は捜査の進捗状況を知るためその場に残った。
桜田は首脳陣との短い打ち合わせを終えて席を立とうとする佐藤警視に歩み寄った。そして、『一戸ノート』をビニール製の袋に入れたまま警視に手渡した。警視はまだ会議室に残っていた鑑識官を呼び寄せ、一言添えてその手にノートを預けた。
「高校の同級生だということ以外に、一戸達樹と川村椿との接点を見つけることが出来ていません。私たちは今後何をすれば?」
「お前たちには引き続き鑑取りを頼む。一戸の周辺がまだまだ不透明だ。青森でこれ以上何も出てこないようなら、こちらでの鑑取りにあたれ」
桜田は、返事を保留した。
「この二日間で、こちらでは一戸達樹が追いかけていたことの中に何か新しいことが見つかりましたか?」
「予想に反して、仕事上の深刻なトラブルは特に見当たらない」
「個人的には?」
佐藤はにやりと笑った。
「そこだ。一戸達樹には、入社当初から個人的に調べていたことがあったようだ」
身を乗り出す自分を桜田は感じた。
「それは?」
「ある組のクスリと金の流れ。そしてその先にいる政治家」
佐藤警視の言葉を耳にした瞬間、桜田は胸が詰まった。
未だに、これだ。
体が瞬間的に反応してしまう。桜田は警視に気づかれないように、ゆっくりと息を吸った。
それでも、桜田の反応を警視は察したのだろう。微笑を消し去った固い表情が、桜田に「まだなのか」と問うているように見えてならなかった。それでも、仕方のないことだと割り切って話しを続けてくれる警視の姿勢に、むしろ救われた思いがした。そうだ、今は過去に振り回されているときではない。目の前の現実に直面しなければならない。胸の支えをぐっと呑み込んだ。
「その線が出てきたということは、捜査本部の所帯も拡大したってことですよね?」
桜田の言葉に、警視は深々と頷いた。
「暴力団と薬物が絡んできた以上、組織犯罪対策部の二課と四課と五課を新たに加わえなければならない。大きな山になりそうだ」
「こちらでの捜査が拡大するなら、私たちには再び青森での鑑取りにあたらせてください。まだまだ出てきそうなものがあるので」
佐藤が桜田の目を見た。桜田は視線をそらさなかった。
「分かった。そうしてくれ。いずれにしても、二人とも今日はもう帰れ。久し振りの帰宅だろ?」
「はい。そうさせていただきます」
桜田はそう言って、佐藤に頭を下げた。佐藤は踵を返して歩き出した。しかし何かを思い出したように、再び桜田の前に戻ってきた。
『永遠の花嫁』第二章「粉雪」B11
『永遠の花嫁』