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ハンドルを握り車を発進させると、山脇が我慢し切れなかったというように切り出した。
「いやあ、話したくて話したくてしょうがないっていう感じが、溢れてましたね」
「そうね。自分もこの件に貢献してるって思いたいんでしょうね」
「予定通り、このまま鳴海不動産に行きますか?」
「ごめん、ちょっと停めて」
桜田は道の先に見えるコンビニエンスストアの看板を指差した。山脇は慌てる様子も見せず、はいと言って車を駐車場に入れた。
「時間軸を整理しましょう」
そう言いながらショルダーバックから捜査ノートを取り出した桜田に合わせ、山脇も手帳を準備した。
「これまでに集めた情報を合わせると、川村真理亜と椿が弘前に越してきたのが二〇〇五年の三月二十八日。倉科先生の家庭訪問が四月十三日。このとき先生は椿には会っていても真理亜の姿は確認していない。翌日の十四日、椿の行方も分からなくなった。そして同日、椿の退学を申請する電話が入った。このときの声は真理亜の可能性もあるし、そうでない場合もありうる。捜索願が出されたのはその翌日、二〇〇五年の四月十五日。ここまでは間違いないわね」
桜田の問いかけに、山脇は頷いた。
「その後、捜索願は取り下げられていない。川村真理亜は失踪したまま。それなのに、退学届が届いているのはどうして? 誰が書いた?」
考えを巡らせるように視線を泳がせた後、「すべてが真理亜本人の行動に間違いがないのなら、失踪先から真理亜が送ってきた。通常ならばそうとしか考えられませんね」と山脇は言った。
真理亜が失踪後も生きていたことを保証する手掛かりとなる物証だと言っていい。しかしその裏側から見れば、真理亜が生きていると見せかける手段とも取れる。
「その文書を手に入れて鑑識で詳しく分析すれば、何か分かるかもしれない」
「八年も前の文書から指紋は取れますか? 筆跡鑑定は可能でしょうけど」
「そうね。指紋は難しいかもしれない。でも、可能性はある。それにあなたが言う通り、筆跡鑑定はできる」
「行きましょう。学校に」
山脇が気色ばんだ。
「待って。倉科先生にも連絡を入れる。退学依頼の電話の声のことをもう少し詳しく聞きたいから」
桜田は倉科の携帯電話を呼び出した。三月十二日月曜日、午後一時。授業に入っているのかもしれない。いくら待っても、倉科が携帯に出ることはなかった。何か胸騒ぎがした。
桜田は、今度は学校に電話をかけた。
「はい……」
「お忙しいところすいません。先日そちらに伺った、警視庁の桜田と申します。倉科先生にお取り次ぎ願えないでしょうか?」
事務員が学校名を言い終わらないうちに、桜田は声をかぶせた。
倉科が、今日は欠勤しているとの答えが返ってきた。代わりに校長に取り次がせた。校長にまわされた電話で、桜田は退学届の閲覧の許可を願い出た。転校したものの、一度は貴学に在籍した生徒の利益を守るためだとの説明を加えると、快諾してくれた。
「すぐにそちらに伺います」
桜田は半ば叫ぶようにそう言った。
倉科の所在が分からない。ならば学校に急ぐ理由は何もない。しかし、桜田はそうせずにはいられなかった。桜田が電話で話している声を受け、山脇が車を発進させた。車体を反転させ、来た道を戻る。桜田は電話を切った。
「どこに行ったんでしょうね」
山脇は苛立ちを隠さずに言った。桜田は窓の外を見た。目の前の光景が次々と後ろに流れていった。
『永遠の花嫁』第四章「牡丹雪」B12
『永遠の花嫁』