カーテンを開けると、目の前に白が広がっていた。
二月の下旬。強い寒気が日本列島の上空を覆い、前夜から今朝までも粉雪が降り続いている。さらさらと流れるように一晩も降りしきったものだから、街を白一色に染めないはずはない。乱反射の眩しさに見つめ続けることが出来ないほど、白く輝く雪が街を埋め尽くしていた。
二月二十一日、火曜日。今日は朝から一戸達樹の実家を訪ね、父親から話を聞くことにしていた。
訪問することはあえて相手に知らせずにいる。ときには相手の感情を乱してこそ本音を引き出せるという目論見がある。
達樹の実家はこのビジネスホテルからそう遠くない。晴れていれば二十分程度車を走らせれば着くはずだが、こうも雪が積もってしまっては、おそらく倍の時間を要することになるだろう。それでも朝食を終えてすぐにホテルを出れば、一戸達樹の父親の起きがけに訪問することが出来る。起きてすぐに死んだ息子について話を聞きに来るような刑事が快く受け入れられるはずもない。あえてそこを狙うのだ。
「一戸達樹の父親と、直接話をしてみる?」
一階ロビーに下りるエレベーターの中、桜田は山脇に問いかけた。桜田に向けられた山脇の瞳は、すっきりとした輝きを放っていた。分かりやすい男だ。
「有難うございます。是非」
山脇は短くそう答えた。
外に出ると、一陣の風が吹きつけた。痛いほど冷たい空気の切れ味に、頬が無言の悲鳴を上げた。二人は身を小さく屈めながら車に向かった。『わ』ナンバーの小型車が、ちんまりと雪を被っていた。山脇が助手席側のドアの雪を素手で素早く払い除けた。その手指が痛々しいほどに赤くなっているのが、桜田からもはっきりと見て取れる。桜田は先に助手席に乗り込んで、山脇を待った。運転席に滑り込むなり、彼は両手の平を重ねて自分の口元にもっていき、はーっと息を吹きかけた。桜田の目には、その顔が微笑んでいるように見えた。
弘前市の中心部にあるビジネスホテルから車を走らせ、一戸達樹の生家に至るまでに予想通り三十分以上を要した。雪のために車速を上げることはできなかった。
朝の早い時間だ。一戸達樹の父親和人は、この時刻ならばまだ眠っているかもしれない。
山脇は玄関先に車を停めた。車を降り、呼び鈴を押した。しばらく待たされた後、一戸和人が姿を現した。彼は起きがけにもかかわらず、よく色の落ちたブルージーンズにネイビーのボトルネックのセーターを合わせていた。
『永遠の花嫁』第二章「粉雪」B1
『永遠の花嫁』