『永遠の花嫁』第四章「牡丹雪」B7

『永遠の花嫁』

「田辺の直接の兄貴分が島崎と考えて間違いない?」
「はい。竜盛会でのクスリのルートでは。島崎は組の中では相当の実力者だということになります。その下に舎弟二人を挟んで、田辺が末端です」
「島崎が竜盛会のなかでそれほど上位にあるのなら、かえって身柄はすぐに確保できるんじゃない? トップにならない限り、何らかの足の引っ張り合いがあるでしょうし」
 タレコミなどの対象となり、情報がつかみやすいのではないか。桜田はそう考えた。
「それが」山脇が口ごもった。「この七年間、表には全く姿を見せていないそうです」
 七年前。真理亜が失踪し、椿が花庵に入ったタイミングだ。
「生きてはいる?」
「はい。それは間違いないようです。島崎が関係する複数の企業に対し、どこからかネットを介した指示が常に出されているとの証言が取れています」
「どうしてそれが本人だと?」
「そのやり取りが画像をともなっているからです」
 なるほど、そういう時代なのだ。桜田は小さく舌打ちした。
 それにしても、なぜ島崎はそこまでして姿を隠す必要があったのか? 身の危険があるとしか考えられないが、誰が島崎の命を狙うというのだろうか。
「調査の進み具合は?」
「これから電話会社と協力して、田辺の携帯の発信が記録された周辺地域を徹底的に洗うことになっています」
 山脇は捜査本部に詰めたままだ。この情報のやり取りを終えれば、あとは弘前で合流した方がいいだろう。山脇の報告を聞きながら、桜田は今後の動き方を考えていた。
 正直なところ、一人で行動したい。特に今回の件については、自分はいつものように捜査活動をすることができていない。冷静な判断が下せていたはずの場面で、妙に自信を喪失している。藤本のクリニックで倉科を同席させたことは、捜査の王道からすれば明らかに間違った行為だ。結果的に良質の情報を引き出すことはできたかもしれないが、桜田が刑事としての自尊心を失うには十分すぎる場面を自ら招いたことになる。一方で、倉科という男にぐいぐいと分け入ることで何らかの事実に行き当たるはずだと信じて突っ走ることには、自分の中に少しの揺らぎもない。こんなふうに、見慣れない強さと弱さをそれぞれに表出させている今の自分は、明らかに精彩を欠いている。こんなときに犯すであろう失態を、出来るだけ人目に晒したくはない。だからこそ、桜田は一人で行動したいと思う。しかし、山脇はこの件のパートナーだ。これ以上の別行動は捜査に対する彼自身の意欲をそぐことになる。
「他には?」
「タレこみがありました」
「どこから?」
「捜査員の一人が飼っている竜盛会内の情報屋です。この件は島崎の暴走として、組の中でも大きく問題視されていたようです」

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