『永遠の花嫁』第五章「終雪」A9

『永遠の花嫁』

 桜田は倉科の顔を盗み見た。それに気づき、倉科は桜田の顔を見返した。
「倉科先生、あなたはその男の顔をすでに見ていますよ。あなたが東京の一戸達樹の部屋で見つけた、この写真の中に映っています」
 一人だけ誰だか分らなかった男。桜田がコンピューターの画面に指をさした。
「今はどこに?」
「川村真理亜と同時に行方が分からなくなっています」
「どういうことです?」
「川村真理亜は堀内恵一との間に子どもをもうけました。その子が、川村椿です」
 しかし、真理亜は恵一の籍には入らなかった。だから、椿は川村姓だ。二人は東京で暮らし始めたが、その後一旦別れている。東京に出たあと、恵一が女をつくって。間もなくその女とも別れたが、さすがに東京の真理亜の元に戻ることはできなかったのだろう。単身、実家に入っている。その経緯を、桜田は倉科に話して聞かせた。
「その間、椿が東京でひどい目に遭っていたことは?」
「堀内恵一は知らなかったようです」
「では、その堀内恵一が、川村依子とも関係をもっていたということですか?」
「その通りです。そして、依子にも子どもが授かりました」
「その子は?」
「死産でした。文字通り、死んで生まれてきました」
「それは確かですか?」
「はい。依子は叔母の里見千代の保護の下で、長野の病院で出産しました。その証言と病院の記録から、一九八八年の十一月六日であることが分かっています」
「間違いなく依子と恵一の子だとする根拠は?」
「千代が臍帯を保管していました。後で役に立つことがあるだろうからと」
 臍帯血と依子のDNAを比較すれば、すぐにでも血の繋がりが判明する。
「依子はなぜそんなことを」
 なぜ姉が関係をもっていた男とそんなことになってしまうのか。倉科にはうまく理解することができない。
 桜田は再びノート型のコンピューターを指し示した。写し出された画面には川村家の玄関先を切り取った、例の写真が映し出されたままだ。
「倉科先生が見つけたこの写真に二人が写っていたことから、島崎竜司と川村依子との接点が明らかになりました。そのため令状が取れました」おそらく、真理亜と恵一は、この家のどこかに遺されている。「今夜踏み込むつもりです。島崎を逮捕することで、様々な疑問の答えが見えてくるはずです。川村依子の口から聞けるものも多いでしょうし」
 今夜踏み込む?
 夜はすでに始まっている。結果を()くような桜田の様子を、倉科は強く危惧した。
「家宅捜索は何時に?」
「十一時です」
 倉科は壁の時計を見上げた。あと二時間半しかない。
「あまりにも早急なのでは? 捜査本部の指示はもちろん受けているんでしょうね?」
「もちろんです。こんなに重大なこと、私に決められるはずはありません」
「依子の元に島崎が身を隠しているのなら、家の中の様子をじっくりと探った方がいいのではないですか? それこそ逃げ場のない、袋の中のネズミのような状態なのだから。何も焦ることはない」
「事態は、めまぐるしく動いています。一戸達樹殺害に直接手を染めた田辺康之が殺害され、遺体が発見されています。島崎まで同じ結果になってしまえば、事件の全容を知る人間がいなくなってしまう」
 桜田が腕の時計を見た。嫌な予感がした。倉科は言葉を重ねた。

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