2026-08

掌編小説

坂の街

玄関の施錠を解くために鍵が入っているはずのポケットに手を入れようとしたが、学校から鉢植えの朝顔をもって帰ってきていることに気がついた。 盛りのころを過ぎ、枯れかかった蔓の付け根に種の入った実がいくつもついている。それを玄関の脇に置き、引き戸...
書評

55.『ビューティフル・ネーム』 鷺沢萠著 新潮文庫 平成19年1月1日発行

「好きな作家は?」と問われたら、あなたは何と答えるでしょうか。常日頃から考えていないと、うまく作家の名前が出てこないかもしれません。そんなときには「急にそんなこと言われえても、(作家名が)出てこないなあ」などと煮え切らない態度をとることにな...
掌編小説

六月の風は

六月の風は緑色に薫かおる。 梅雨前線は関東南部で停滞しているものの、その日の朝の天気予報によれば翌日にでも東北南部にまで北上する見通しだ。梅雨をむかえるのは各地ともほぼ例年通りだとも伝えられている。それまでの二、三日は、初夏の乾いた風を楽し...
掌編小説

ちょっとだけ意地悪を

時世もあり、十とお以上も離れた同僚と酒を飲むことはなくなった。 かつては酒を飲んでこそ話せることもあると思っていた。しかし、日常では話せないことをアルコールの勢いを借りて話しても、ろくな結果になるはずがない。この事実に気がついてからは、酒の...
書評

54.『ウェルカム・ホーム!』 鷺沢萠著 新潮文庫 平成18年9月1日発行

規則やルールを重要視するあまり、それを運用する人間の側に互いに対する思いやりやいたわりをないがしろにしてしまう場合があります。人の心を大切にしないところには良い結果は生まれません。私たちはこの事実を社会生活を営む時間の長さに比例して経験的に...